映画「武漢の嵐」 経済成長期の痛みに苦しむ中国の庶民の暮らしがそんまま描かれていて驚き

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武漢の嵐 映画・演劇
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映画.com – 映画のことなら映画.comのチケットプレゼントに当選し、中国ドキュメンタリー映画祭で上映している「武漢の嵐」を観てきました。

★ あらすじ

工場で働いていた息子(王昭陽)が仕事中の事故で片手を切断してしまう。孫娘(王善平)にはそれでもいい学校に通わせたいと考えた主人公(王天成)は、住み慣れた農村から家族を連れて武漢にやってくる。武漢では路上で果物や雑貨などを売る商売を始める。

そんな暮らしを続けて十数年。中国では近代化を目指し、都市における露店などの取り締まりが厳しくなっていった。取り締まりを担うのは「城管(じょうかん)」(「城市管理執法」の略称で、都市部の秩序を管理する非警察機関)たち。毎日のように立ち退きを通告しに店を訪れるのだが、その度に主人公は激高し、大声で城管たちに罵声を浴びせ、道行く人に自分の状況を訴える。

城管たちも仕事とは言え本音ではこの家族に情を感じている。だが、上司からはちゃんと仕事をしろと叱責される。頭を抱えつつも仕方なく、またいつものように露店前に出向く。今回はどれだけ道を占拠しているかの測量と、売上の把握をする。だが、主人公に店の幅を測っていたメジャーを取り上げられ、投げ捨てられる。さらには変装してまでして売上をメモしていたのに、そのノートを破り捨てられる。

息子は生活のために商売を続けたい気持ちは父親(主人公)と同じものの、近代化の波に逆らうことはできないと思い始めている。そして段々と父親と衝突し始めてしまうのだった。

★ キャスト&スタッフ

  • 原題: 城市梦(City Dream)
  • 出演:王天成, 王昭陽, 王善平, 趙陽, 胡亦峰, 李淑祥, 瑞花
  • 監督:陳為軍(チェン・ウェイジュン)

★ 感想

名無しの子」に続いてもう一本、中国ドキュメンタリー映画祭で観てきました。

ステレオタイプ的印象として中国の人はとにかく声が大きくて、街中で会話をしているだけなのに喧嘩をしているように聞こえてしまう。“主人公”のおじいちゃんはまさにその真ん真ん中の人。そんな人が本当に城管と喧嘩しているんだから、とにかく騒がしい作品だった。でも、それがまさに中国の庶民たちのバイタリティーをストレートに伝えていて、引き込まれてしまった。

日本でも戦後に各地でできた闇市の時代が終焉を迎える際には似たようなことがあったんじゃないだろうか。そこから日本では中間層が増えていったのだと思うが、中国ではどうなのだろうか。政治的な問題はあるけど、経済発展は著しいのは確か。それは日本以上のスピードで進んでいるようだ。そして、それ故に経済格差は広がってしまったのだろう。そんな状況でもがき苦しむ庶民の姿は国や時代、体制の違いを超えて共感できるものがあった。このドキュメンタリー映画祭のキャッチフレーズが「リアルすぎる中国が、ここにある」だが、まさにその通りだった。

さて、そんな経済格差の大きさと、おじいさんの声の大きさが相乗効果を生んで、ここまでやかましい映画となったわけだが、頑固一徹な主人公のおじいさんには圧倒されてしまった。そして、これが“ドキュメンタリー”作品だということに改めて驚く。おじいさん一家にしても、城管の職員たちにしても、カメラが廻っている中でここまで本音を出しているなんて。上映後のトークイベントでタネ明かし(?)があったんだけど、今作の撮影隊は一年に渡っておじいさん一家と城管とに分かれて一年間毎日貼り付いていたのだそうだ。しかも、両チームは撮影時に全く会話をしなかったそうで、完全にそれぞれの身内・中間として溶け込んだらしい。いやぁ、凄い話。

他では観られない面白い映画でした。

★ 公開情報

  • 公開日:2020/8/28(at 中国):2025/11/7(at 中国ドキュメンタリー映画祭)
  • 主な上映館:角川シネマ有楽町
  • 受賞歴:2019年ニューヨークドキュメンタリー映画祭 ビューファインダーコンペティション部門審査員賞

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