「ファーザー」 明日は我が身か、人生の黄昏に向かう旅

ファーザー 映画・演劇

★ あらすじ

八十歳を過ぎてアンソニーはロンドンで一人暮らしをしていた。娘のアンが面倒を見に来ていたが、彼女にはパリで新たな生活が待っていた。仕方なくアンは介護人を雇うことにしたのだが、アンソニーが暴言を吐き、辞められてしまう。アンソニーは認知症の症状が出始めていたのだ。自分の腕時計を盗まれたと思い、そんなことになってしまった。実際はバスルームに置き忘れただけなのに。

アンソニーが紅茶を淹れていると、部屋に見知らぬ男がいた。誰かと訪ねると、アンの十年来の夫だと言う。困惑するアンソニーをよそにその男は、この家も彼ら夫婦のもので、介護のためにアンソニーを一時的に引き取っただけだとも言ってくる。訳が分からなくなり、アンを呼ぶ。ちょうど彼女が買い物から帰ってきた。アンに、あの男は誰なんだと聞くのだが、彼女は「五年前に離婚して夫はいない」と返答する。いや、そんなはずはとアンソニーは部屋を覗いてみたが、男の姿は消えていた。

アンは別の介護人をやっと見つけてくる。アンソニーに引き合わせると、次女のローラにそっくりなその女性にアンソニーは驚くも、今度は陽気に振る舞う。自分はタップダンサーだと言って、タップダンスまで披露するのだった。
だが、アンソニーのそんな陽気さは一転し、アンとアンの夫(前に現れた夫とは別人)とが自分の家を奪おうとしていると怒鳴り出す。
さらには、次の日にやってきた介護人はローラとは全く似ても似つかない別人だったのだ。

困惑していくアンソニー。何が真実なのか、自分がどこにいるのかもだんだんと混乱してきてしまっていたのだった。

★ キャスト&スタッフ

  • 出演:Anthony Hopkins, Olivia Colman, Mark Gatiss, Olivia Williams, Imogen Poots, Rufus Sewell, Ayesha Dharker
  • 監督:Florian Zeller
  • 脚本:Christopher Hampton, Florian Zeller
  • 音楽:Ludovico Einaudi

★ 感想

ロナルド・レーガン元米国大統領がアルツハイマー病を公表した際の、

I now begin the journey that will lead me into the sunset of my life.

「人生の黄昏に向かう旅に出る」という言葉は今も記憶に残っている。とは言え、その時にはまだまだ自分には関係ないこととも思っていたけど、今やもう。。。
この映画、他人事とは思えない、身につまされるような想いで最後まで見入ってしまった。祖父が亡くなる前、脳軟化症になってしまった時に病院に見舞いに行ったんだけど、私に対して「誰だ?」と。黄昏時には暗さに目が慣れず、人の顔が分からなくなるが、まさにそんな感じ。
この作品では、そんな黄昏の中で世界がどんな風に写るのか、どんなことを感じるのかがちょっと分かったような気になれる。時系列がぐちゃぐちゃになって“知っている人”が現れるのだが、私がそうなった時には亡くなった祖父や祖母に会えるのだろうか。

主演のアンソニー・ホプキンスは1937年生まれだそうだから、撮影時には八十歳を超えていた訳だ。台詞を覚えるだけでも大変なんじゃないかと思ってしまう。それなのに陽気に話す場面から、急に怒り出したり、かと思えば何もわからなくなって呆けたようになったりと、余りにも自然に演じていて、引き込まれるどころではなく、自分の身内を観ているような気になってしまった。アカデミー賞主演男優賞も頷けます。
娘を演じたオリヴィア・コールマンも良かった。現実世界の娘と、父の妄想の中の娘の二役(?)を演じ分けていて、観ているこちらを混乱させてくれた。実際にこんな立場になったら大変だろうな、嫌になりつつも拒否はできないジレンマに陥った時ってこんな顔をするんだろうな、と納得してしまった。

誰にでも起こるかも知れないその時。実際、こんな風なのだろうなと思ってしまうラストシーンでは劇場内ですすり泣きの声があちこちから聞こえていました。私自身は余りにも身につまされてしまい、泣くのを通り越して観終わった時にため息が漏れちゃいましたよ。

いやぁ、いい映画を観ました。これはおすすめ。

★ 公開情報

★ 原作本、他

コメント

  1. 中野潤子 より:

    アンソニー・ポプキンズは好きな男優です。うまいですよね。是非見たいと思います。

  2. 東雲 より:

    あらすじとぶんじんさんの感想を読んで、
    母と自分の今後が重なって、観てみたい!と思いました。
    でも、中々映画館には行けそうにないな・・・(-_-)
    来年あたり、WOWOWでやるかな?

    • bunjin より:

      アカデミー賞も獲っているし、きっとやるんじゃないでしょうか。その際は是非。