「ボテロ展 ふくよかな魔法」 あのふっくら無表情には何が隠されているのか

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ボテロ展 美術展・写真展
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Bunkamuraザ・ミュージアムで「ボテロ展 ふくよかな魔法」内覧会に参加してきました。

例によって特別な許可をいただいて写真撮影しています。通常は撮影禁止ですので、ご注意願います。

ただし、後述するように特別に定められた日では誰もが撮影自由になるようです。

展示内容

南米コロンビア生まれのフェルナンド・ボテロさんは現在90歳でご存命。現役の美術家です。今回、生誕90年ということでこのような大規模展が開催されました。
公式サイトの説明によると、

ボテロ作品を特徴づけているのは、あらゆるかたちがふくらんでいるということ。彼のモチーフは、人物も動物もふくよかで、果物は熟れきっているかのように膨らみ、楽器や日用品さえも膨張しています。ボリュームを与えられた対象には、官能、ユーモアやアイロニーなど複雑な意味合いが含まれ、観る人のさまざまな感覚に力強く訴えかけます。それはボテロ独特の「魔法」ともいえるもので、世界中で注目され続ける理由がそこにあるのです。
南米だけではなくヨーロッパや北米、アジアでも大規模展が開催され、世界各地で人気を博しているボテロ展ですが、日本国内では26年ぶりの開催となります。2022年、生誕90年の記念すべき年にボテロ本人の監修のもと、初期から近年までの油彩ならびに水彩・素描作品など全70点で構成される本展は、ボテロとの新たな出会いを生む貴重な機会となることでしょう。

ボテロ展 ふくよかな魔法 | Bunkamura

とのこと。一度観たら忘れられない“画風”です。本企画展のタイトルにある通り、魔法にかけられたように魅入られてしまいそう。

展示構成は以下の通り。

  • 第1章 初期作品
  • 第2章 静物
  • 第3章 信仰の世界
  • 第4章 ラテンアメリカの世界
  • 第5章 サーカス
  • 第6章 変容する名画

こちらは17歳の頃に描いた作品。「泣く女」と題されたこの作品、一見すると“まだふくよかではない”ように思われるが、顔を覆う手や腕は膨らんでいる。この頃からすでに“ふくよか”が表れていたとも言える。

ボテロ展

その後、ヨーロッパ(イタリア)に渡って研鑽を積んだボテロさん。そんなある日、バイオリンを描く時に穴を小さくしてみたら、楽器全体がドーンと膨らんで見えてきたのだとか。そしてそこに芸術的な美を見いだしたのだそうです。

ボテロ展

若くしてヨーロッパに移り住んだボテロさんですが、心はいつも故郷のメデジン(コロンビア第二の都市)にあったそうです。コロンビアのカルチャーに根ざした作品を、“ふくよか”さを持って描いていったのです。
コロンビアではキリスト教が非常に強い影響を持っていて、人びとの生活を規定していました。ボテロさん自身はそれほど信心深い訳ではなかったそうですが、それでも多くの宗教画を描いています。
と言っても、ふくよかさが彼の基本ですから、キリストの磔刑図もこの通り。

ボテロ展

さらには聖母子像も。キリスト(?)はちゃんと光輪が描かれていますが、フリスビーかと思える厚みがありますね。さらに、キリストは手に小さな旗を持っていますが、これはコロンビアの国旗だとか。こんなところにも故郷への愛情が示されています。

ボテロ展

こちらのご婦人方は聖女たち。みなさん、ちゃんと光輪があります。でも、服装は今風。いや、ボテロさんの思うコロンビアの女性の姿なのでしょうか。こんな風に題材(宗教画、聖女像)とは関係なく、身近な景色や風俗に置き換えて描くのがボテロさんスタイルのようです。

ボテロ展

教皇を描いた作品。これはやはり教会批判と捉えていいのでしょうかね。サイズ感の全く異なる侍女(?)を描き入れることで、教皇の傲慢さを訴えているのかも。

ボテロ展

寝ている人がボテロさん自身。つまりは自画像。でも、浮いているのか、これからベッドにどんと落ちようとしているのか、どっちにしろサイズ感が合わない天使(?)は夢のお告げを伝えようとしているのでしょうか。ボテロさん、寝ている間に何かの暗示を受けたのでしょうかね。

ボテロ展

市井の人びとも多く描かれています。カーニバルで仮装している人やダンスに興じている人など、コロンビアの風俗を題材にしています。

ボテロ展

政治家、軍人も彼の手にかかるとこの通り。権威もなにもかも吹っ飛んでしまいそう。

ボテロ展

いわゆる寡婦と呼ばれるような、低所得者層の人びとの暮らしも描いていて、コロンビアの現状を隠すことなく顕わにしています。無表情な人物たちからは、日々の暮らしが苦しいのか、それでも楽しくやっているのか、どちらなのか分からない。逆に、観ている我々が読み取らねばならないようです。

ボテロ展

ボテロさんの作品は原色に近いヴィヴィッドな色彩に溢れているイメージですが、実は「黒」が好きなのだとか。とは言え、暗い星空に舞う悪魔たちもふくよかな魔法にかかってしまっているので、憎めない存在に見えてしまいます。

ボテロ展

水彩画のシリーズも展示されていました。モノクロームだとふくよかな人びともちょっとシャープに感じられるのが不思議。

ボテロ展

青色の鉛筆で下描きをしているようです。書き直した様子がはっきりと残っているのが一興。

ボテロ展

サーカスの一団を描いたシリーズもありました。舞台裏の、彼らの生活も淡々と描いているボテロさん。

ボテロ展

子育て中のサーカス団員。その背中が何かを語っています。

ボテロ展

さて、名画をオマージュした作品群も多数、展示されていました。例によって“ふくよかな魔法”が欠けられている訳ですが、それでも「ああ、あの作品か」と分かってしまうのが楽しい。
こちらはディエゴ・ベラスケスの「マルガリータ王女」ですね。スペイン・ハプスブルク家の人びとというと、顎がしゃくれた長細い顔付きでお馴染みですが、だいぶ体型が変わられたようで…。

ボテロ展

元の絵がこれですからね。。。

ヤン・ファン・エイクの「アルノルフィーニ夫妻像」。元の絵では、血の気の失せた顔が不気味な旦那さんも、ボテロさん作品では血色も良く、かなり健康そう。奥さんは臨月間近なのかな。

ボテロ展

元の絵がこちら。

ヤン・ファン・エイク「アルノルフィーニ夫妻像」

感想

ボテロ展

例によって(?)、勉強不足でボテロさんのことはよく知りませんでした。観たら忘れられない画風だから、全く観たことがなかったのかな。
と言うことで、新鮮な気持ちで作品を楽しむことができました。そして、この「ふくよかさ」が持つ魅力に一気に惹きつけられてしまいましたよ。それが作者の狙いなのでしょうが、官能的にも見えるし、その裏に何かを隠している“ベール”のようにも思えるし、とにかく目を惹く表現です。タイトル通りに「魔法」ですね、これは。

「ふくよか」なのもそうですが、人物が一様に無表情なのも、これまた惹きつけられる要因。中世ヨーロッパの宗教画が、十字架に磔にされようが、受胎告知されようが、人物はみな無表情。あれと同じで、感情よりも作品のテーマ自体を理解せよ、と言うことなのかも知れません。
その無表情の裏に、政治家は傲慢さを、宗教家は権威主義を、そして市井の人びとは生活の苦しさを秘めているのでしょう。イコン画が、無表情であってもそれは神であり聖母であるように、ふくよかな無表情は、ふくよかさとは逆に色々なものをそぎ落としたイデアのような、そのものの本質を描き出している感じがします。

一方で、そんなに難しく考えなくても、ヴィヴィッドな色彩とポップな表現は、ポスターにして家に飾りたくなる“カワイイ”見た目もしています。観ていると楽しくなってくる。静物画に描かれたオレンジや洋梨は“完熟”状態で美味しそう。
キャラクターとしても魅力的で、キーホルダーに仕立てたグッズがミュージアム・ショップで売っていましたが、まさにピッタリの素材。

ということで、楽しい企画展でした。

美術展情報

  • 会期 : 2022/4/29(Fri) – 7/3(Sun)
  • 開館時間 : 10:00 – 18:00 (金・土曜日は21:00まで)
    なお、5月中の金・土曜日の17時以降は全作品の写真撮影が可能になります! 対象日は以下の通り。
    • 5/6, 7, 13, 14, 20, 21, 27, 28
  • 休館日 : 5/17のみ
  • 料金 : 一般 1,800円 、 学生 1,100円、 小中学生 800円
  • 公式サイト : 【公式】ボテロ展 ふくよかな魔法
  • 図録 : 2,700円(税込)
  • 音声ガイド : 会場レンタル版 650円、アプリ「聴く美術(Android, iOS)」版 730円
    • ナレーター:声優の伊東健人
    • スペシャルゲスト: BE:FIRST(本企画展スペシャルサポーター)
  • 巡回先 :
    • 名古屋市美術館:7/16(Sat) – 9/25(Sun)
    • 京都市京セラ美術館:10/8(Sat) – 12/11(Sun)
  • 参考書
ボテロ展

コメント

  1. タエコ より:

    ポテロ展、東急からの案内では概要しかわからなかったけど、ここを読んで、半分行った気分になりました。的確な説明といくつもの絵を見せて頂きありがとうございました。太ったキリストは初めて見ました。

    • bunjin より:

      なんとも不思議な感じの作品ばかりでした。一見の価値あり、だと思います。

  2. 中野 潤子 より:

    いつものように見ることはできませんが、丁寧な解説で十分見たような気分になります。「ふくよか」と言う言葉がぴったり合いますね。会場にいたら自分がスマートに思えるかもしれません。ご紹介ありがとうございます。

    • bunjin より:

      そろそろ往来も自由になるんじゃないでしょうか。この美術展には間に合わないかもしれませんが。