「虫めづる日本の人々」展 :虫たちの姿、声に美や哀れを感じるものなぁ

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虫めづる日本の人々 美術展・写真展
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東京ミッドタウンにあるサントリー美術館で「虫めづる日本の人々」展を観てきました。

展示内容

公式サイトの説明によると

日本美術の特色のひとつとして、草木花鳥が古来大事にされてきたことが挙げられます。そして、それらと比較すると小さな存在ではあるものの、虫もまた重要なモチーフでした。現代において昆虫と分類されるものだけでなく、例えば、蜘蛛、蛙、蛇などの、うごめく小さな生き物たちも虫として親しまれ、物語や和歌、様々な美術作品に登場します。
(中略)
そこで、本展では特に江戸時代に焦点をあて、中世や近現代の「虫めづる日本の人々」の様相に触れつつ、虫と人との親密な関係を改めて見つめ直します。

虫めづる日本の人々 サントリー美術館

とのこと。

展示構成は以下の通り。

  • 第一章:虫めづる国にようこそ
  • 第二章:生活の道具を彩る虫たち
  • 第三章:草と虫の楽園―草虫図の受容について―
  • 第四章:虫と暮らす江戸の人々
  • 第五章:展開する江戸時代の草虫図―見つめる、知る、喜び―
  • 第六章:これからも見つめ続ける―受け継がれる虫めづる精神―

蝶々がひらひら舞っている姿は春だと感じ、鈴虫の鳴き声を聞けば秋を想う。そんな感覚が千年の昔から日本人の共通感覚として続いている。絵巻物や屏風絵の中で季節感を表すために、草花とともに虫が描き込まれ、観る者の共感を呼び起こすとと共に、増幅もさせていったからだろう。

やがて、蝶々や蜻蛉の造形や色彩の美しさに気づいた先人たちは、酒器、染織り物などの装飾に取り入れていく。熨斗蝶(のしちょう)は熨斗紙の一種で、蝶々を象って折られた熨斗。御神酒に添えられたりする。雌雄の別があり、夫婦円満を表す。そんな熨斗蝶は着物の絵柄にもなっている。

一方、中国では多種多様な草花と虫を描いた絵が立身出世や子孫繁栄などの吉祥を表す画題として確立し、草虫図(そうちゅうず)と呼ばれている。草虫図は博物学的観点からも好まれ、六朝時代(3~6世紀)からの流れが続いていた。そんな草虫図は日本にも伝来し、時の権力者たちに愛蔵されたために、日本の絵師たちも影響を受けていった。

江戸時代になると庶民の間にも宮廷文化、権力者たちの趣味嗜好が流れ込み、野山へ虫の声を聴きに行く「虫聴」や、蛍を追う「蛍狩」などが流行した。市中には虫売りも現れ、自分の家で虫の声や姿を楽しむようにもなる。そしてそんな風俗を題材にした作品(喜多川歌麿の「夏姿美人図」など)も多く作られる。

江戸時代は東洋の博物学である本草学も盛んであったが、そこに西洋からの科学技術が流入してくる。そして虫たちを“科学的”な目で見て研究する人々も出てくる。そこでは、風流さだけではない、虫たちの“生態”を観察した結果を詳細に描く辞典のような作品も作られるようになった。

現代、科学的観点で虫たちを観察することはもちろんだが、我々の心の中には「虫聴」や「蛍狩」の情緒が受け継がれていて、虫めづる感覚は文化の底流の一つとなっている。

感想

展示作品の一つにもなっている「堤中納言物語」の「虫めづる姫」の話は、中学生か高校生の時に読みました。平安の時代にも“科学的”観点を持った人がいたんだなと感心したことを覚えています。また、学生の頃に行った旅行先で初めて蛍の飛び交う光を見た時の感激した気分も記憶に残っています。都会に住む現代人の私でも、春には蝶々の姿を見るし、夏には蝉の鳴き声にさらなる暑苦しさを感じ、公園の草むらで鳴く虫の声に秋の訪れを感じます。自然とはかけ離れた生活を送っているんだけど、それでも確かに「虫めづる」感覚は自分にも刷り込まれているんだなぁと思います。夏休みに、母の田舎に遊びに行った時、夕暮れ時に蜩の鳴く声を聴くと、子どもながらに「夏が終わってしまうのか」としんみりした気分にもなったかな。

千年の昔から語られ、描かれ、文様として生活の中にも溶け込んでいった虫たち。虫たちに対する我々の感覚は”めづる(愛づる)”という表現がぴったりかもしれない。この感覚はかなり東洋的なのかも知れませんね。それほど詳しい訳ではないけれど、西洋美術やイスラム文化で虫をフィーチャーしているような例を知りません。ボタニカルアートも薬草学や植物学といった科学的研究を目的としているようだし、そもそも“インセクトアート”という言葉を聞いたことがない。どちらが良い悪いと言うことはないけれど、文化の、いや感覚の違いというのは面白いものです。

螺鈿(らでん)で鈴虫を描いた小箱が私は気に入ったかな。文字通りの漆黒を背景に、鈴虫の羽根が銀色に光り輝き、角度によってキラキラと煌めいて、鳴き声が頭の中で聞こえてくる感じがしました。人の脳の動きって不思議なもの。鈴虫と認識すると、その鳴き声までもが“連想”される形で記憶に蘇ってくる。なるほど、これが文化であり、共通感覚であり、虫めづることなのだと再認識したのでした。

草虫図や本草学の図鑑、着物の絵柄は別にして、物語絵巻や硯箱などに描かれる虫たちはとっても小さい。単眼鏡を持参するか、サントリー美術館メンバーズクラブのメンバーならば単眼鏡貸し出しサービス(ただし、会員本人限定)を受けることをお薦めします。

美術展情報

  • 会期 : 2023/7/22(Sat) – 9/18(Mon)
  • 開館時間 : 10:00 – 18:00
  • 休館日 : 火曜日
  • 料金 : 一般 1,500円 、 学生 1,000円、 中学生以下 無料
  • 公式サイト : 虫めづる日本の人々 サントリー美術館
  • 図録:2,700円
  • 参考書

コメント

  1. 中野 潤子 より:

    詳しい解説で楽しめました。でも実際を見たいですね。

    • bunjin より:

      文化、共通感覚ってこういうことなんだなと感じられる楽しい展示でした。
      九月半ばまで流行っているので、機会があれば是非。