恵比寿ガーデンプレイスにある東京都写真美術館で「被爆80年企画展 ヒロシマ1945」展を観てきました。
展示内容
公式サイトによると、
(前略)
広島では年末までに推計で14万人が犠牲になったとされます。あれから80年となる2025年現在、世界は9カ国が保有する1万2千発もの核兵器に脅かされ続けています。世界各地で戦火が絶えない今こそ、被爆者の「決して繰り返させてはならない」という訴えとともに、原爆写真と映像を広く共有しなければなりません。
このたび、広島市民、報道機関のカメラマンや写真家の手による広島原爆写真約160点と映像2点を公開します。資料の所蔵や保存・活用に携わってきた報道機関が連携し、原爆写真と映像の展覧会を主催するのは初の試みです。
(後略)
とのこと。
展示構成は以下の通り。
- 1 きのこ雲の下で~8月6日の記録~
- 2 焦土の街 人間の悲惨~あの日からの1ヶ月~
- 3 遠い再建 占領下の苦闘~1945年末まで~
- 映像
現代ならば誰もがスマートフォンを持っているので、何か事件が起きれば多くの写真やビデオが撮られるだろう。しかし、八十年前となると話は違う。ところが、立ち上るきのこ雲がちゃんと写真に収められていた。この時は何が起きたのか分からなかっただろうが、それでも写真を撮らねばならないとシャッターを押した訳だ。ファインダーを通した景色を見て撮影者は何を思ったのだろうか。

広島に原爆が投下されたのは1945年(昭和20年)8月6日(月曜日) 日本時間午前8時15分のこと。週明けの朝、人々は出勤途上だったり、子どもたちは学校へ登校している時間帯だ。満員だったろう路面電車は吹き飛び、燃え上がり、街は焦土と化した。

翌8月7日に街(だった場所)を撮ったパノラマ写真が残っている。遠くの山並みの景色を遮るものは何もなくなっていた。
臨時救護所が各地に設けられたが、負傷者の数、そして受けた損傷の大きさには対応できなかっただろう。
さらに火葬場も街のあちこちに作られ、瓦礫の中で荼毘に付されていった。
原爆の放った放射線の強さは、壁に残された“影”が物語っている。パイプの弁を開平する円形ハンドルの跡や、窓ガラスの桟の跡が日光写真のようにくっきりと残っている。
放射線被曝は生物の細胞自体を破壊する。数時間から数日で命を落とす場合もあれば、幹細胞の損傷が数年・数十年後にガンなどを引き起こすこともある。

日本政府は元より、戦後の進駐軍によっても報道規制がされ、真の状態を伝えることがなかなかできなかったそうだ。米国の調査団によって多くの写真が撮られ、記録が録られたが、それらはあくまで「原爆の威力を調査する目的」のものであった。
しかし、日本側の調査団や写真家らによって多くの写真が残された。
被爆によって造血器官が損傷すると血小板が減少し、貧血や脱毛の症状が出るそうだ。「頭髪の抜けた姉弟」の写真は同年10月6日に撮られたものだそうだから、被爆から二ヶ月で強い症状が出ていることになる。現代であれば血小板輸血などの“対処療法”もあるようだが、当時はどのような処置が成されたのだろうか。

感想
館内は「景色としての撮影はOK。作品の一点撮りはダメ」というルールになっていた。ただ、そのルールがなくても、一枚ずつ写して写真ホルダーに残しておくことがどうしても躊躇われてしまうものばかりだった。
現在も世界のあちこちで戦争が起きている。ロシアによるウクライナ侵攻、イスラエル・パレスチナ戦争、スーダン内戦、ミャンマー内戦などなど。その中では核兵器の使用についても言及され始めている。為政者は人の命を軽視し、国民は過去の歴史を知らないか、もしくは知る機会がなかったのだろうか。日本国内でもこのような情勢から再軍備や、その前提となる憲法改正などを訴える声が大きくなってきている気がする。「人は過ちを繰り返す」とはよく言われることだが、原爆投下から八十年が過ぎ、過ちがあったことすら忘れてしまっているのかも知れない。
毎年の報道写真展を観ても思うが、写真の持つ力は大きい。ビデオ・動画の方が“状況”をより良く伝えるのかも知れないが、写真はその瞬間をじっくりと見せてくれる。そして、観ている者に考える時間・感じる時間を与えてくれる。そこで何があったのか、被写体となった人はどのような想いを持っていたのか、そしてどのような苦しみがあったのか。そんなことを“想像する”ことを写真はさせてくれる。当たり前だが、人は誰もが自己中心的だ。なぜなら、他人が何を考えているかを直接知ることはできないからだ。だからこそ、“想像する”ことが大事なのだろう。
吹き飛ばされ、燃え上がり、枠組みだけになった路面電車には通勤・通学途中の人々が乗っていたはずだ。真っ黒に炭化した遺体となってしまった人は、“その時”には痛みや熱さを感じたのだろうか。
私も“戦後生まれ”だからこそ、このような機会に過去の歴史を知り、考え続けていきたいと思う。
写真展情報
- 会期:2025/05/31 (Sat) – 2025/08/17 (Sun)
- 開館時間 : 10:00 – 18:00(木曜日、金曜日は20:00まで))
- 休館日: 月曜日 (月曜日が祝休日の場合は開館し、翌平日休館)
- 料金 : 一般800円 大学生以下 無料 65歳以上 500円は無料
- 公式サイト : 被爆80年企画展 ヒロシマ1945
コメント
80年ということでTVでもこれまでにない視点からの放送が増えています。広島知事の話には心が染みる内容でした。出来たら見に行きたいものです。紹介していただいて感謝です。
できれば全国へ巡回してほしい企画展です。