東京ミッドタウンにあるサントリー美術館で「幕末土佐の天才絵師 絵金」展を観てきました。
この企画展では一部のみ写真撮影OKです。ただし、会場に掲載されている注意事項に従ってください。
展示内容
公式サイトの説明によると
絵金は文化9年(1812)に高知城下・新市町(現・はりまや町)の髪結いの子として誕生したといわれる。「絵金」は「絵師の金蔵さん」の略称・愛称であり、本人が名乗ったことはない。幼少時より画才のあった金蔵は、同じ町内の南画家や土佐藩御用絵師に絵を学んだ。
(中略)
赤岡(現・香南市赤岡町)の叔母の家に一時滞在していたと伝えられ、赤岡の北に位置する須留田八幡宮の神祭に奉納された芝居絵屏風が代表作である。墓碑銘によると金蔵から絵の手ほどきを受けた者は数百人いたとされる。明治9年(1876)、数え65歳で亡くなった。
とのこと。
展示構成は以下の通り。
- 第1章 絵金の芝居絵屏風
- 第2章 高知の夏祭り
- 第3章 絵金と周辺の絵師たち
絵金の芝居絵屏風は高知県に現存し、二曲一隻の形式を取っているものがほとんど。現代の我々から見ると、見開きの“劇画”のようだ。そのせいか、馴染み深い感じもする。
題材の多くは歌舞伎の一幕を描いたもの。他には風俗や歴史人物を描いたものもある。登場人物はそれぞれ独特のポーズを取り、表情も豊かで、物語の内容がそれだけで伝わってくる。それにしても、こんな風に手首は曲がらないぞ、とツッコみたくはなるが。
絵金が活躍した高地では、芝居絵屏風をいつからか夏祭りに飾るようになる。神社が作品を保存し、後世に伝え、そして祭りの場では人々が楽しめるように飾る。
今回の企画展では,高地の神社で行われている絵馬台を再現する形で展示が行われている。祭りの夜に作品を見るという体験に近づけるため、ライティングも提灯が使われている。提灯の明かりは作品の真ん中を明るく照らし、端は薄暗くなっている。描かれた人物は、舞台の上でスポットライトを浴びているように浮かび上がっている。

絵馬台は下をくぐるようになっているものもある。祭りに向かう人々は行きと帰りでそれぞれ、絵馬台の表裏の作品が楽しめる仕掛けだ。

中には凝った絵馬台もあるようで、「山海経」にでてくる“手長・足長”の妖怪を柱に彫刻したものもあるそう。非日常を描いた芝居絵を守るにはこんな妖怪が相応しいのかも知れない。
なお「山海経」については私のもう一つのブログに紹介記事を書いているので参考にしてください。
感想
悪く言えば“エロ・グロ”描写ばっかり。女が縛られていたり、切腹のシーンだったり。元の歌舞伎が当時のセンセーショナルな事件や物語を題材にしているのだから、それをそのまま描けばこうなるのは必然かも知れないが。とにかく血みどろ。いやすごい。これを祭の最中に飾るということは子どもも見る訳で、怖がる子もいるのでしょうね。まあ、それもまた一つの経験としては悪くはないかも知れませんが。
それにしても絵金さんは元はお殿様(家老?)のお抱え絵師で狩野派の門弟だったとか。そのしっかりした基礎技術があったからこそなのでしょうね、この迫力のある画風は。
絵馬提灯(行灯絵)は祭が終わると破棄されることが多く、残っているものはほとんどないそうだが、石川五ェ門の生涯を描いた作品(二十五点で一セット。現存するのは二十四点)がずらりと展示されている。話の概要がキャプションで紹介されているのでじっくりと読んでしまった。特に面白かったのが最後の作品。その一つ前で石川五ェ門は息子共々、煮え立つ油で釜ゆでにされてしまう。そして最後の作品では、その窯を掃除しているシーンが描かれている。油で揚げられて膨れあがってしまった二人の遺体を無表情で掻き出す人夫たちがなんとも言えない。このシーンは元の話にはなく、絵金の創作ということになるそうだ。あれだけ世間を騒がせた大泥棒も、死んだらすぐに見向きもされなくなると言う浮き世の無情を示したかったのだろうか。それとも、悪党の最期は惨めなものだという戒めを表現したのだろうか。二十数点分を観てきた最後だけに色々と考えてしまった。
この企画展で初めて知った絵金さん。世の中にはまだまだ知らない(私が知らなかっただけかも知れないが)天才たちがいるんだなと、今回も感心してしまった。そしていつか高知を訪れ、祭りの場で作品たちを観てみたいものだと思ったのでした。
美術展情報
- 会期 : 2025/09/10(Wed) – 11/03(Mon)
- 開館時間 : 10:00 – 18:00
- 休館日 : 火曜日
- 料金 : 一般 1,800円 、 大学生 1,200円 高校生 1,000円、中学生以下 無料
- 公式サイト : 幕末土佐の天才絵師 絵金 サントリー美術館
- 図録 : 2,800 円(税込)
- 音声ガイド : 650円 ナビゲーター 中村七之助
- 参考書
コメント
「狂おしいほどに美しい」ピッタリな表現ですね。翻弄にまう理の場で見たら一層の迫力を感じるでしょうね。
会場でもライトを定期的に暗くして「祭の夜」の雰囲気を出していました。