恵比寿ガーデンプレイスにある東京都写真美術館で「宮崎学 イマドキの野生動物」展を観てきました。
展示内容
公式サイトによると、
宮崎学(1949-)は中央アルプスの麓、長野県上伊那郡南向村(現・中川村)に生まれ、伊那谷の自然豊かな環境を活かし、1972年よりフリーの写真家として活動を開始しました。「自然界の報道写真家」として、現在も日本中の自然を観察しています。
宮崎は動物たちの通り道に自作の赤外線センサー付きのロボットカメラを設置し、撮影困難な野生の姿を撮影した「けもの道」のシリーズなど、哺乳類、猛禽類の撮影において独自の分野を開拓してきました。また、人間の生活空間近くに出没する野生動物や、外来動物の影響など、動物の生態を通して人間社会を浮き上がらせる社会性のあるテーマにも取り組んでいます。
東京都写真美術館
とのこと。
展示構成は以下の通り。
- I ニホンカモシカ
- II けもの道
- III 鷲と鷹
- IV フクロウ
- V 死
- VI アニマル黙示録 イマドキの野生動物
- VII 新・アニマルアイズ
幻の存在とまで言われていたニホンカモシカを撮影するため、作者はまず中央アルプスの山に籠もり、生態観察を始める。彼の写真と目撃情報(どこで観たのかを克明に記録していた)は科学的にも貴重な資料となっている。
登山道にロボットカメラ(無人で撮影可能な装置)を据え付けて捉えた野生動物たちの姿は、彼らの “日常” を見せてくれている。獲物を加えて得意げに丸太橋を渡るキツネや、何か物思いにふけっているようなテンなど、無人カメラだからこそと撮影できた作品ばかりだ。
面白いのは、人間の写真も作品として展示されていること。昼間は人びとのハイキングコースになっているその道が、夜には野生動物たちのけもの道として使われているという、その対比が面白い。ここを熊が頻繁に往来していることを知ったら、その道をちょっと怖くなっちゃうかな。
森で動物が死ぬと、その死骸は多くの動物たちの命を支える “食事” となる。冬、雪に埋もれていたニホンジカのその後を追った組み写真は、こうやって「命の循環」が行われていくんだと言うことを教えてくれた。その肉はもちろん、骨も無駄にされることなく食べ尽くされ、体毛も鳥たちの巣作りの材料となる。死骸に湧くウジだって貴重な食料だ。
そして、雪がなくなった頃には、そこに鹿の死骸があった痕跡は全くなくなっている。「土に還る」過程を学ぶことができた。
野生動物たちは人間の生活圏でも逞しく生きている。ゴミとなった台所洗剤のキャップを “宿” に利用しているヤドカリの姿は何を語っているのだろうか。
外来種が普通に街中を走り回る姿も多く写されている。街中の公園には台湾リスが走り回り、新宿の繁華街の路地にはアライグマが闊歩している。そして川にはティラピアが泳いでいる。野生動物が減った都会の地は、競争相手の少ない理想的な場所だったのだろう。
感想
私の友人にも “ネーチャー系” の写真を撮っている人がいるが、暑い中・寒い中を山に入っていっての撮影は大変そう。 そして、写真家 宮崎学はそんな撮影を数十年にも渡って続けているのだから、それだけで感心してしまう。写真展の最後のコーナーに撮影機材(手作り品も多い)が展示されているのだが、カメラもレンズも傷だらけの満身創痍という雰囲気。撮影の大変さが偲ばれます。
実際、熊がカメラや三脚にじゃれてひっくり返すなんてシーンまで作品として展示されているくらいで、機材たちも作者と共に大変な目に遭ってきたことがよくわかります。
そんな苦労をして撮影された作品ですけど、被写体の動物たちは逆にリラックスした姿を見せてくれているのが対称的。「けもの道」シリーズの中には、ちょっと気の抜けたような、油断した表情を見せてくれている動物たちも多く、ほっこりした気分にもなれました。
一方で、周囲を警戒している鷲・鷹や、フクロウの眼光は鋭く、猛禽という言葉がピッタリ。あんなのに睨まれたらかなり怖そう。
それにしても街中にこんなにも動物たちが侵入しているとは知りませんでした。都会の真ん中でハクビシンが目撃されたとか、猿が現れたなんてニュースはちょこちょこ見聞きしますが、もう普通に生活しているんですね。特に外来種と呼ばれる連中はすごいな。アライグマってこんなにも縄張りを広げていたんですね。ビックリ。
山に籠もって動物たちの自然の姿を写してきた作者の作品だからこそ、街中で、そしてゴミの中で暮らす生き物たちの写真は訴えるものがある。我々はどう共存していけば良いのでしょう。考えさせられます。
写真展情報
- 会期:2021/08/24 (Tue) – 2021/10/31 (Sun)
- 開館時間 : 10:00 – 18:00(木曜日、金曜日は20:00まで))
- 休館日: 月曜日, 9/21 (8/30, 9/20は開館)
- 料金 : 一般700円 学生 560円 中高生・65歳以上 350円 小学生以下および都内在住・在学の中学生は無料
- 日時指定予約Webketページでの予約が推奨されています
- 公式サイト : 東京都写真美術館
- 図録 : 2,600円(税別)
- 参考書 :
コメント
今日のNHK日曜美術館で、動物写真家宮崎学が放映されるので楽しみにしてました。
写真美術館10月31日までなら見に行きます。情報ありがとうございます。
私も今、観ています。撮影、思った以上に大変な作業だって事がよくわかりました。だからこそ撮れた作品なのだと再認識。