「よみがえる正倉院宝物」展:千年前の匠の技に圧倒されます

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よみがえる正倉院宝物展 美術展・写真展
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東京ミッドタウンにあるサントリー美術館で「よみがえる正倉院宝物 再現模造にみる天平の技」展を観てきました。
この企画展では写真撮影NGです。また、出品作品はすべて再現された模造です。

展示内容

公式サイトの説明によると、

正倉院宝物の模造製作は、明治時代に奈良・東大寺で開催された奈良博覧会を機に始められました。

本展は、これまでに製作された数百点におよぶ再現模造作品の中から、選りすぐりの逸品を一堂に集めて公開するものです。

御大典記念 特別展 よみがえる正倉院宝物―再現模造にみる天平の技― サントリー美術館

とのこと。
正倉院の宝物群は、奈良時代、聖武天皇がなくなった後、奥さんの光明皇太后が天皇遺愛の品約650点を東大寺に奉献したのが始まりとのこと。その後も各種宝物がコレクションに加えられていき、今に至るそうです。戦時(藤原仲麻呂の乱(恵美押勝の乱))には太刀やその他の武器が持ち出されて、返却されなかった、なんてこともあったようですが、多くの宝物は、経年変化で形が崩れていっても、その破片までもきちんと保存されていったとのこと。

そんな“お宝”は一つ一つが唯一無二の存在。そのため、災害などで失われると取り返しが付かない。そのため、本物を修理素のではなく、(ほぼ)同じものを作り、いざという時に備えようという活動が続いている。本物と同様の素材・材料を使い、当時の技術を再現した模造品の製作だ。

展示構成は以下の通り。

  • 第1章:楽器・伎楽
  • 第2章:仏具・箱と几・儀式具
  • 第3章:染織
  • 第4章:鏡・調度・装身具
  • 第5章:刀・武具
  • 第6章:筆墨

伎楽とは、中国南部の呉国から伝来した仮面劇のこと。その面が正倉院宝物として伝わっている。「酔胡王面」は、酔っ払った王様を表した仮面。再現した模造品は、真っ赤な顔、巨大な鷲鼻、そして本物の面では完全に失われてしまった髯もフサフサだ。この面を被ってコミカルな演技をしたらしい。

染織は繊維製品を生産する技術および工芸のこと。織り物は、縦糸に対して横糸の組み方を工夫することによって、色々な文様を織り出すことができる。正倉院宝物でも多くの織り物が伝えられていて、様々な織りパターンを再現している。

筆墨としては、聖武天皇が大仏開眼の際に用いた筆の模造品が展示されている。筆先は毛を五重に巻いて作っている。柄の部分は卒業証書を入れる筒くらいの大きさがあるが、大仏の目の長さは一メートル以上あるそうなので、この筆でも目を入れるのは大変だったろう。

感想

“模造品”と聞くと、なんだ偽物か、などと思ってしまいます。が、この企画展は違った。なにせ本物と(ほぼ)同じ材料・素材を使い、当時の技術を再現して作った訳ですから、「二個目の本物」と言えましょう。その当時は天皇や一部の人しか見ることのできなかったものを、かつての姿をそのままに目にすることができる貴重な機会なのだと実感しました。

最初に「螺鈿紫檀五絃琵琶(らでんしたんのごげんびわ)」の製造プロセスが細かに説明されているんですが、いきなり驚きます。螺鈿やウミガメの甲羅(玳瑁)の加工をして模様を作っているんですが、現代の名工たちが息を殺して糸鋸で切り出しをしたり、極細の線を彫ってます。これは気の遠くなるような作業だなと感心してしまう。
でも、その次には「これ、千三百年前にはどうやっていたんだろう?」と頭の中が?マークだらけになっていました。太刀を造る技術はあったから、彫刻刀は良しとして、糸鋸の代わりに(?)何を使っていたのか想像できません。現代の名工たちは八年がかりで模造作品を完成させたそうですが、当時はどれくらいの年月をかけて作ったのでしょうね。

染織では「伯耆国調白絁」、「武蔵国調白絁」、「紀伊国調橡絁」がそれぞれ再現されて展示されています。“調”とは税として納められた布地のこと。面白いのは、各地(伯耆、武蔵、紀伊)の布の出来映えに差があること。武蔵国産の布は他に比べると織り方にムラがあり、ランクが落ちるようです。武蔵国は当時、“地方”いや、“田舎”だったんだなぁと思ってしまうのでした。ちなみに、模造品はそのムラも再現しているそうで、それにも感心。でも、私の目ではそんなに違いがあるようには見えなかったんですけどね。

いつもとは違って(?)、極彩色だったり、キラキラと輝いていたり、とにかく目を惹く展示品ばかりでじっくりと見入ってしまいました。お蔭でずいぶんと時間がかかってしまった。いや、面白かった。

美術展情報

コメント

  1. 中野 潤子 より:

    サントリー美術館はいい展示をしますよね。正倉院のものは少しずつあちこちの展示で見ましたが、沢山を一堂にしてみるんことはなかったです。
    ぶんじんさんが面白いと思ったのですから、間違いないですね。雪放り投げて見に行きたいです。

    • bunjin より:

      奈良国立博物館などを巡回してきてのサントリー美術館での展示のようです。
      放り投げるには雪が多すぎるようで、どうぞお気を付けください。