パナソニック汐留美術館で「テルマエ展」を見てきました。
この企画展では一部作品に限って写真撮影OKです。対象作品を確認して撮影してください。
また、三脚・フラッシュNGなどの注意事項にも従ってください。
展示内容
公式サイトの説明によると
本展は、日本における古代ローマ研究の第一人者である青柳正規氏、芳賀京子氏の監修と、マンガ『テルマエ・ロマエ』で知られるヤマザキマリ氏のご協力で、古代ローマの人々の生活を“お風呂文化” を中心に紹介するものです。絵画・彫刻・考古遺物といった100件以上の作品と映像や再現展示を通して、古代ローマをより身近に感じていただくことができるでしょう。
とのこと。
展示構成は以下の通り。
- 序章 テルマエ/古代都市ローマと公共浴場
- 第1章 古代ローマ都市のくらし
- 第2章 古代ローマの浴場
- 第3章 テルマエと美術
- 第4章 日本の入浴文化
ローマ帝国では、皇帝たちが市民の支持を維持するため、テルマエ(大浴場)を建造したのだとか。最初のテルマエはアグリッパによって造られた。さらに、拡大するローマの都市のインフラ整備として水道も敷く。その結果、巨大なテルマエが出現することとなった。有名なのはカラカラ帝のテルマエ。
そんなローマ市民たちの暮らしぶりを伝える品々が展示されている。銅貨や秤、そして炭化したパン(レプリカですが)などなどから、当時の経済活動、日常生活の様子が垣間見られる。
既存、市民、そして奴隷と、明確な身分・階級が分離していたため、貴族や富裕な市民たちは労働よりも娯楽に日々を費やしていたようだ。劇場で演じられていただろう劇の様子を描いた絵画、劇で使われた仮面、宴会の場で大いに飲まれただろうワイン用リュトン(コップ)やアンフォラ(ワインを運搬するための、大きな壺)などが並んでいる。
ローマのテルマエ(浴場)で使われていたカミソリやストリギリス(垢すり用器具)、香油壺などが出展されている。ストリギリスは金属製で、まさに掻き取る感じで使われたよう。想像するにかなり痛かったんじゃないだろうか。あと、垢すりには軽石も使われていたそうで、こちらは今でも踵の角質取りに使われるから、まだ親近感があるかな。
巨大なテルマエを支えるインフラとしての水道。その設備に使われただろうバルブや吐水口も展示されていた。水量を調節するためのバルブは、今でも使えそうな雰囲気。青銅(と鉛?)で造られているそうだが、かなり精密な加工技術を持っていたようだ。まあ、水道用設備に毒である鉛を使ったのは如何なものかと、現代の我々から見れば思ってしまうが。
さてローマの浴場は、装飾のために美術品が多く飾られていた。市民の人気取りが目的なのだから、豪華に飾り立てることにも余念がなかったのだろう。このコーナーは一部が写真撮影OKとなっていた。
右は「牧神頭部」。モザイク画だ。左は「ヴィーナス」を描いたもの。半乾きの漆喰に塗料を塗って定着させるフレスコ画となっている。
こんなヴィーナス像がテルマエに飾られていた。「海から上がるヴィーナス」ということで、浴場にはぴったりな(?)シーンということか。
「カラカラ浴場 復元模型」が展示されていた。手前半分が平面図で、奥の半分が模型となっている。真ん中左の丸いドームを頂いている箇所が浴場だったそうだ。その他に運動場や図書館なども併設されていたようだ。現在のスーパー銭湯よりも色々な施設が用意されていて、テーマパークかレジャーランドのようなものだったのだろう。
最後のコーナーは「日本の入浴文化」。
有馬温泉は日本書紀にも記述があるそうで(どの箇所だったか覚えていないんですが。。。)、千数百年の歴史がある。その前から温泉に入浴することもあっただろうから、ローマほどではないものの、日本の入浴文化もかなりの歴史を持っていることになる。
仏教においては身体を清める意味で入浴が推奨された。また、戦国時代には戦いで負った傷を癒やすため、武将たちが温泉を整備した。そして江戸時代に入ると湯屋(銭湯)文化が広まり、庶民にもその習慣が広まる。また、温泉旅行も娯楽として定着していく。
近代になると健康や衛生面も強調されるようになり、温泉・銭湯はさらに広まって行く。
中将湯温泉は、津村順天堂(ツムラ)から発売された、バスクリンの元祖。
花王シャンプーの元祖。昔はチューブ入りだったそうです。一回分ごとに個包装されたバージョンもあり。飛び込みで銭湯に行った時にはこれを一つ買って髪を洗ったのかな。
石鹸が桐箱入りなのが凄い。
感想
「テルマエ・ロマエ」の原作コミックスは読んだことがないんですが、映画は観てしまいました。その前からローマ時代には興味があり、色々と本も読んでいたんですが、ここまで浴場に関して突っ込んだ話は初めて。いや、面白かった。
テルマエでは、単に入浴をするだけではなく、運動場で汗をかき、図書館で勉強し、そして人々と語り合う総合施設だったそう。図書館って言うと紙の書物を思い浮かべちゃうんで、「風呂と一緒にしていいの?」となるけど、当時はパピルス、皮、羊皮紙などが使われていたから、湿気があっても大丈夫だったのだろうか。いや、そんなこともないと思うけど。この点、どうなっていたのか気になってしまった。水道管に鉛が使われていた以上に“致命的”な気がしてしまう。書物にとって。
日本の銭湯では富士山の壁画がオーソドックスとなっているけど、ローマのテルマエでもモザイク画やヴィーナスの彫刻像が飾られていたようで、洋の東西、時代を超えて“リラックス効果”を人々は求めていたんだとこれまた納得。まあ、皇帝や浴場建設者の肖像画なんかもあったようで、それは宣伝広告を見せられている感覚だったのかも知れません。それも含めてローマの人々に親近感を感じてしまう。
わざわざ大規模な水道設備を構築してテルマエを建造したローマと違って、日本は火山国。自然の温泉という恵みが与えられているんだと再確認。ローマとは別の入浴文化が発展した由縁なのでしょう。
古代ローマと日本、同じようなことも違うところもある入浴文化。でも、裸で湯に浸かればみな同じなのかも。そんなことを思った企画展でした。
美術展情報
- 会期 : 2024/4/6(Sat) – 6/9(Sun)
- 開館時間 : 10:00 – 18:00
- 休館日 : 水曜日(6/5は開館)
- 料金 : 一般 1,200円 、学生 700円、中学生以下 無料
- 公式サイト :
- 巡回先 : 神戸市立博物館(6/22-8/25)、山梨県立美術館(終了)、大分県立美術館(終了)
- 図録 : 2,750円(税込)
コメント
とても興味深く読ませていただきました。ローマ人にとっても戦国武将にとっても温泉は気持ちのいいものだったでしょうね。
私も温泉に行きたくなりました。