東京ミッドタウンにあるサントリー美術館で「酒呑童子ビギンズ」展を観てきました。
展示内容
公式サイトの説明によると
サントリー美術館が所蔵する重要文化財・狩野元信筆「酒伝童子絵巻」(以下、サントリー本)は、後世に大きな影響を与えた室町時代の古例として有名です。このたびの展示では、解体修理を終えたサントリー本を大公開するとともに、酒呑童子にまつわる二つの《はじまり》をご紹介します。
とのこと。
展示構成は以下の通り。
- 第1章 狩野元信筆「酒伝童子絵巻」の大公開
- 第2章 エピソード・ゼロ ―展開する酒呑童子絵巻
- 第3章 婚礼調度としての酒呑童子絵巻
サントリー本は、かの小田原の北条氏綱が発注して、狩野派絵師の狩野元信が作画をした絵巻とのこと。その時期が1522年であったことがハッキリしている、出自のハッキリした珍しい絵巻。
ライプツィヒ・グラッシー民族博物館所蔵の所蔵する住吉廣行筆「酒呑童子絵巻」には、サントリー本にはない酒呑童子出生の話が描かれていた。
スサノオノミコトに退治されたヤマタノオロチが伊吹山の息吹大明神に変化し、郡司(国司の下で働く地方官。地方豪族の場合が多かった)の箱入り娘の元に通い(いわゆる夜這い)、生まれたのが酒呑童子。子どもの頃から酒乱だったため、寺に修行に出されてしまう。その後は酒を断って真面目にしていたが、ある日、再び酒を飲んで暴れ、その寺も追われてしまう。そして身を持ち崩し、やがては酒呑童子と呼ばれる鬼の頭領となってしまった。
酒呑童子の絵巻は能にも多大な影響を与えたと考えられる。能の演目「大江山」(大江山(おおえやま) | 公益社団法人 能楽協会)も、古くは「酒呑童子」の題名で曲が作られていた。また、サントリー本に描かれる「二人の童を従えた酒呑童子」の姿はそのままの形で能の演出に取り入れられている。
会場では能の場面の一部が上映され、現代にも伝わっている様子を見ることができた。
捕らえた娘を喰らう鬼の姿が絵が描かれる、かなりグロテスクな内容の酒呑童子絵巻だが、徳川家康の娘・督姫や、第10代将軍徳川家治の養女であった種姫が婚礼の際に嫁入り道具の一つとして持参(前者はサントリー本、後者はライプツィヒ本)したことから大名たちもそれに倣うようになった。酒呑童子絵巻が婚礼調度の定番となった背景はこんなところにある。
婚礼品(絵巻を収めた箱)や、絵巻の名が記載された調度品目録などが展示されていた。
感想
酒呑童子の物語は、源頼光、渡辺綱、坂田公時らの物語のヒール役として知っていた。きっと、当時の盗賊団(人さらいもする凶悪集団)を殲滅したという“実話”があったんじゃないかな、それが物語として鬼となって描かれたんだろう、などと思っていた。
今回の「ビギンズ」では、酒呑童子は酒乱で両親や、修業先の寺からも見放されてグレてしまい、悪い仲間(鬼)を集めてそのヘッドとなったと描かれた絵巻が展示されていた。私の想像も当たらずといえども遠からずだったようだ。
以前に読んだ「風土記」には“土蜘蛛”退治の話が語られていたが、異国・異民族・反体制派・犯罪集団を鬼や蜘蛛などの化け物扱いするのは物語の中では常套手段なのだろう。
それにしても酒呑童子絵巻はかなりグロテスク。さらった娘の脚を切り落としてそのまま俎板に乗せて源頼光たちに供する場面など、ホラー映画だったら18禁じゃないだろうか。しかも、鬼たちに素性を隠すため、彼らもその肉を喰らって見せている場面。いや、凄いですね。しかも、絵巻は鬼退治後の後日談として凱旋する頼光たちを描いている場面もあり、そこでは拉致された娘の遺族に対面しているシーンも。私も一緒に食べました、とは言えないだろうし、よくもまあ平気でいられたものだ。なんて思ってしまった。
サントリー本はかなり傷んでいて、修復作業が終わったので今回の企画展になったとのこと。お陰で、かなり血なまぐさい場面も込みで色鮮やかな絵巻物語を楽しむことができた。それはライプツィヒ本にしても同じ。保管・修復に務めてくれた人々に感謝せねばならない。
でも、そのせいで(?)じっくりと絵物語(の解説)を一点ずつ読んでいったため、鑑賞終了までずいぶんと時間がかかってしまった。もちろん、満足感はその分、とても高いものでしたが。
絵巻物の物語が能に取り入れられて舞台化する。これってメディアミックスってやつそのものです。人々の娯楽って千年近くたってもあんまり変わらないものなのですね。
美術展情報
- 会期 : 2025/4/29(Tue) – 6/15(Sun)
- 開館時間 : 10:00 – 18:00 (金曜日は20:00まで)
- 休館日 : 火曜日 (6/10は開館)
- 料金 : 一般 1,700円、 大学生 1,200円、高校生 1,000円、 中学生以下 無料
- 公式サイト : 酒呑童子ビギンズ サントリー美術館
- 図録 : 2,800円(税込)
- 参考書
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