映画「架空の犬と嘘をつく猫」:家族の繋がりとは何なのか

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架空の犬と嘘をつく猫 映画・演劇
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以下の内容は、いわゆる「ネタバレ」を含んでいます。

★ あらすじ

麦畑が広がる地方の街にその家族は住んでいた。祖父母、父母、姉、そして主人公の少年だ。もう一人、末っ子の弟がいたが事故で亡くなってしまう。それ以降、母は現実逃避をし、死んだこどもが生きているかのように振る舞い、姉や主人公を無視するようになる。父は浮気に走り、家を留守にするようになる。祖父は次々に“夢物語”のような事業を興しては失敗を繰り返す。家族を顧みなくなった母を憎みつつ、姉は一人で家事や弟の世話をする。祖母はそんな家族に優しく接するが彼らの関係を変えることはできない。バラバラになる寸前の家族。主人公の少年は優しい嘘を重ねながら、何とか家族をつなぎ止めようとする。

祖父は他界し、姉は家を出て行く。だが、そんな中でも少年は中学、高校へと何とか進んで行く。そして、訳ありの家庭に育つ女の子との初恋があり、アルバイト先の居酒屋では幼なじみの(もう一人の)女の子と再会する。母からの愛情を知らずに育った主人公は恋にも上手く立ち回れない。ただ、その優しさを持って接するだけだ。

主人公が一人で生活を始める時になっても、まだ彼は優しい嘘を続け、それによって家族は何とか繋がりを持っていた。だが、彼にも嘘をつくことをやめねばならない時が来る。

★ キャスト&スタッフ

  • 出演:高杉真宙、伊藤万理華、深川麻衣、安藤裕子、向里祐香、ヒコロヒー、鈴木砂羽、松岡依都美、森田想、高尾悠希、後藤剛範、長友郁真、はなわ、安田顕、余貴美子、柄本明
  • 監督:森ガキ侑大
  • 脚本:菅野友恵
  • 原作:寺地はるな
  • 音楽:Cali Wang

★ 感想

私、伊藤万理華ファンクラブ「脳内博覧会 PLAYLIST」の会員なんです。そして、会員向け抽選に当選し、映画「架空の犬と嘘をつく猫」ジャパンプレミア上映会に招待されたのでした。

出演者のリストにある通り、伊藤万理華さんが主人公の幼なじみ役で出演していて、さらには乃木坂46で“同僚”であった深川麻衣さんが主人公の初恋の相手で主演しているんです。二人とも数々の作品に出演している俳優で、今回もその演技はとても良かった。ファンであるという贔屓目なしでも拍手を送りたい。
伊藤万理華さんの演技は感情をストレートに表現する感じ。共感というか引き込まれるというか、見入っちゃう
深川麻衣さんは今回、悪女というかどうしようもない奴というか、主人公を振り回す役柄だったのが新鮮だった。これまでは真面目な女の子や薄幸の女性というような役が多かったけど、今回は何とも言えず複雑な役。面白かったですね。

私は原作を読んでいないのですが、原作者の寺地はるなさんは佐賀県出身とのこと。この映画も佐賀を舞台にしています。風で穂がなびく麦畑や、夕焼けに映える山々の稜線など、牧歌的な景色の描写が美しかった。そしてもう一方で、父親の浮気相手の店(スナック?)や、姉と同級生たちがたむろする郊外型ショッピングセンター外のベンチなどは地方都市の場末感が出ていた。その対照的な描写が、この家族の物語の舞台としてとてもいい感じだ。

最近、「夫婦別姓」か「通称」かという議論が良くも悪くも進もうとしているけど、その背景にあるのは「家族」という単位。親子という生物学的な繋がりをベースにしているので、社会的な“組織”としても歴史はとても古いのだろう。だが、自我に目覚め、自分という存在を自覚するようになった我々は“個人”が最小単位と認識するようになっている。その上で今、家族の繋がりとは何なのかが問われているのだろう。
こんなに悲しい嘘を続けないと繋ぎ止められなかった家族って、それぞれの“個人”にとってはどういうものなのだろうか。家を出て行った姉も、祖母の危篤に際しては帰ってきたし、葬式にもちゃんと出席している。だが、火葬が済んだ後に家族が乗り込んだマイクロバスの、各人の座席の位置は何とも言えない。その中で、新たに“家族”に加わった主人公の妻(伊藤万理華)がもたらした新たな“問題”には、主人公以外は口を出せないでいる。この微妙な距離感が家族の繋がりなのだろうか。

色々と考えさせてくれる作品だ。

★ 公開情報

★ 原作本

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