「夢の実現」展で、見たことないダヴィンチに遭遇

夢の実現展 美術展・写真展

代官山のヒルサイドフォーラムで開催中のダ・ヴィンチ没後500年 「夢の実現」展のブロガー内覧会に参加してきました。

展示内容

池上英洋教授

レオナルド・ダ・ビンチのものとされる、現存する絵画は十六点しかなく、完成品は四点しかない。 東京造形大学の研究活動の一環で、昨年(2019年)が没後500年だったレオナルド・ダ・ビンチの未完の作品や、修復が必要な作品をヴァーチャルで再現し、誰も見たことのなかった“本物”を作りだした。
対象は絵画のみならず、建築や機械、彫刻に及ぶ。特に建築物や機械類は設計図・スケッチのみで実物は残っていない。いや、そもそも最初から製作されたことがなかったものばかりだった。本企画展は、そんな、レオナルド自身も夢みた“完成品”を作り出し、展示している。

以下、池上英洋教授の解説を基にご紹介。

展示構成は以下の通り。

  1. 絵画
  2. 建築
  3. 彫刻
  4. 機械
  5. メディア・デザイン

絵画

誰もが知っている「モナ・リザ(ラ・ジョコンダ)」だが、ニスが黄褐色に変色してしまっているし、表面のひび割れもかなり進行している。だが、“世界の至宝”と呼べる作品だけにルーブル美術館も修復の手を入れるのをためらっているのが現状。それを今回、数理的ヴァルール(色価)を用いて色彩分析をし、ヴァーチャル修復を試みた。

モナ・リザ

レオナルドの絵画作品には、下絵まで描かれたものの、着色されずそのままになっているものが何点か残っている。注文を受けたものの、途中でキャンセルされたのかも知れない。
ただ、下絵と言ってもレオナルドの場合は非常に完成度が高い。ディテールまで描き込んでいるので、それだけで作品と呼ぶに相応しいほど。そんな下絵だけの作品の一つが「聖ヒエロニムス」。
当時、聖人などを描くのに“決まり事”があり、例えばこの聖ヒエロニムスの場合は、纏っているガウン(?)は赤色に描くのがルールだった。そのような規範を他の作品などから解読し、今回の再現となった。
なお、絵画展示コーナーで赤枠になっているのはミラノ時代に描かれたもので、青枠はフィレンツェに滞在していた時の作品であることを示している。

聖ヒエロニムス

「白貂を抱く貴婦人」も下絵までで製作が止まっていた作品。

白貂を抱く貴婦人

「最後の晩餐」もヴァーチャル再現を試みた。3D CG技術やVRを使って描かれている空間(部屋や窓、テーブルなど)を再構成している。その過程で新たな発見(左右の窓の大きさが異なる、など)があり、それらは「メディア・デザイン」のコーナーで詳しく紹介している。またVR体験もできる。

当時、壁画はフレスコという手法で描かれることが多かった。これは壁に漆喰を塗り、その上に描くもの。絵の具が漆喰に吸収されるので、耐久性にも優れている。だが、漆喰が乾ききらないうちに絵を描かねばならない難点もある。レオナルドは作業が遅かった(ちょっと描いては「今日は終わり」としてしまった)ため、テンペラ画の技術を使ってこの壁画を描いた。だが、テンペラ画では絵の具が壁に浸透することはなく、経年変化で剥離が進んでしまっていた。

最後の晩餐

建築

レオナルドは建築家でもあった。ただ、彼の構想した建築物はあまりに壮大なものばかりだったので、 一部アイデアが流用されたことはあるが、 全体として実現したものはない。今回、彼が残したスケッチを基に再現してみた。
彼は、オスマントルコに仕官しようとまで考えていたそうで、ビザンチン芸術への憧れを強く懐いていた。その“趣味”が建築作品に現れている。

集中式聖堂

「大墳墓計画」は、実現したら高さ60メートルにおよぶ巨大墳墓を作ってしまおうというもの。もし完成していたら、イタリアの“ピラミッド”になっていたはず。ただ、実現には国家予算規模のコストがかかると予想されたため、(当然ながら)計画のみで頓挫した。今回、そんな夢の建造物を、ミニチュアモデルではあるが、実際に作ってみた。

大墳墓計画

墓室の構造が分かるようにしたカッティングモデルになっている。複数の墓室をもった集合型の墳墓を計画していたことが見て取れる。もしも実現してたら、イタリアの王侯貴族はここに眠ることになったかも知れない。そして、画家としてのイメージが強いレオナルド・ダ・ビンチは、世紀の建築家として知られるようになっていたかも。

大墳墓計画 墓室

彫刻

そんなレオナルドだが、この騎馬像が完成していたら、今度は彫刻家として世間に名を残すことになったかも知れない。今回、復元されたのはかなりサイズダウンしたもの。実際はブロンズが20トン近く必要な、巨大な騎馬像になるはずでした。ところが、イタリアにフランスが侵攻してきたため、ブロンズは大砲に使われることに。
レオナルドは、復元作品のように、この騎馬像を後ろ脚二本で立った姿勢にしようと計画(この前脚には荷重はかかってないとのこと)。そんな像はそれまで存在しなかった。だが、ブロンズの自重を支えられないことがわかり、三本足で立つフォルムに変更。でも、そこまでしたが、上述の通り、型用の塑像作成段階でストップしてしまった未完作。

スフォルッツァ騎馬像

機械

レオナルドはエンジニアでもあった。各国から雇われ、軍事兵器を設計した。ただ、こちらも半分素人だったせいか、発想が壮大すぎたせいか、戦闘に際しての実用面・コスト面で問題が多く、ほとんどは設計図止まりとなった。そんなマシーンたちを今回はモデルやCGで再現してみた。

当時は機械を作る前に、道具自体も自作する必要があった。ネジ一本、ハンマー一つから全て自前で揃えねばならない。そのため、大きさの異なったネジを数種類、あらかじめまとめて作っておき、各作品で流用した。これは「工業製品の規格化」の始めであり、その点でもレオナルドの偉大さが分かる。

例えば、これはヤスリの自動製造機。ヤスリの目を自動的に刻んでいく仕組みだ。このように、道具そのものの自動製造も進めようとしていた。

ヤスリ製造器

こちらはボールベアリングの機構。同時代人と同様にレオナルドも“永久機関”の発明にチャレンジした。が、結局は(当然ながら)挫折。でも、その過程で「摩擦」が永久機関を不可能にしていることに気付き、摩擦の仕組みを研究した。結果、設置面積が小さい方が摩擦も小さくなることを見いだし、そこからこのボールベアリングの機構にたどり着いたのだ。

スラストベアリング

こちらはマルチキャノン。いわゆる“戦車”だ。側面の穴は砲塔。四方八方に砲撃が可能で、内部の車輪で自走も可能というもの。ただ、こちらも実現しようとすると“国家予算規模のコスト”が必要で、例によってお蔵入り。
その他にも、草刈り鎌を振り回してて木をなぎ倒しながら進む戦車や、敵の騎馬隊の馬を驚かすための自動演奏太鼓などのスケッチが残っている。

マルチキャノンシップ

メディア・デザイン

今回の復元作業のベースとなった学術的裏付けを紹介するとともに、CGやARなどを実際に見たり体験してもらうコーナーも設けた。

こちらは「最後の晩餐」の部屋に入っていけるAR。ここには写っていないが、晩餐のテーブル上の料理も“手に取ってみる”ことができる。
今回の再現で分かったのは、この部屋はやたらと奥行きが長く、そこから計算すると人物は身長が三メートルにもなってしまうと言うこと。イエスと弟子たちは巨人族だったのだろうか。。。

VRによる最後の晩餐

こちらは、レオナルドの“マシーン”たちの3D CG。

CGデザイン

感想

池上英洋教授も解説で仰っていましたが、現在、我々が見ている芸術作品はそれなりの経時変化を伴っているので、製作当時の状態に再現されたものを見ると“違和感”がある、というのが最初の印象。「モナ・リザ(ラ・ジョコンダ)」にせよ、なんにせよ、ちょっと毒々しい。ましてや、下絵だけで着色されていない状態しか知らない「白貂を抱く貴婦人」や「聖ヒエロニムス」が色付きになっているとちょっとビックリ。荒野を彷徨っていた割りには、ヒエロニムスさん、肌の色艶が良すぎます。
でも、これが“本物”なんですよね。素直に受け入れねばなりません。

イタリアに“ピラミッド”のような墳墓を作ろうとしていたとは知りませんでした。いやぁ、何を考えていたのでしょうか、レオナルドさん。東方世界への憧れが強かったんですかねぇ。もし出来上がっていたら、イタリアという国のイメージが変わってしまったかも。それだけ発想が壮大だったということで、改めて彼の偉大さを思い知った感じ。万能の天才と称されることが多いですが、まさに天才です。

それにしてもヴァーチャル修復・復元、面白い。この調子で「サモトラケのニケ」やら「ミロのヴィーナス」などにも果敢に挑戦して欲しいですね。そして、こんな面白いことを大学の研究としてできるなんて、本当に楽しそう。東京造形大学の今後の活動に注目せねば。

ぶんじん
ぶんじん

VR体験などもできる案内用タブレットを貸し出してくれるので、試してみてください。目の前の作品がまた違った形で見ることができますよ。

美術展情報

コメント

  1. taeko より:

    科学技術の発達で、絵もどのように描いたのかがわかるようになってきて、謎解きのようで面白いですね。池上英洋先生の解説はわかりやすいと定評があります。無料はいいですねー。

    • bunjin より:

      なるほど。確かに池上教授の語り口は“説得力”&“納得感”がありました。講義も面白いんでしょうね、きっと。