菊池寛実記念 智美術館でSNSユーザー向け「鳥々 藤本能道の色絵磁器」展鑑賞イベントに参加してきました。
この企画展では写真撮影OKです。ただし、三脚・フラッシュNGなどの注意事項には従ってください。
展示内容
公式サイトの説明によると
藤本能道(1919~1992)は写実的で奥行のある色絵を追求し、1986年に色絵磁器の重要無形文化財保持者に認定されました。絵具の濃淡でモチーフを立体的に描き、それを白磁の肌と一体化させて見せるために、背景を表す技法として「釉描加彩(ゆうびょうかさい)」を開発します。主なモチーフは鳥です。色絵の魅力は絵具や釉薬の重なりによる層状の表現にありますが、鳥を描いた色絵の下層に水彩画のような淡い景色を表すことで器の奥へと広がる写実的な、それでいてやきものの文様としての抽象性も有する独自の表現を生み出したのです。
本展では、1970年代半ばから最晩年の91年までを中心に、素材や技法を開発して色絵磁器に本格的に取り組んだ充実期の作品を通して、藤本能道の制作をご覧いただきます。
とのこと。智美術館の創設者と親交が深く、収蔵品に占める割合も藤本能道の作品がもっとも多いそうで、個展・企画展も何回も開催されている。
藤本能道は窯元の職人ではなく、東京美術学校(現・東京芸大)で工芸図案を学び、先生についていく形で各大学や各地を転々とし、また東京芸大に戻って助教授・教授、そして学長となった人とのこと。教育者でもあり、研究者でもあった。そのためか、色絵(釉薬を施したあとに絵の具で彩色する手法)に関しても新たな技法を開発している。また、五種類の絵の具で原色のみで描かれるそれまでの色絵に対し、同じ絵の具でも混合させることによって中間色を生み出して表現の幅を広げた。その”開発”に当たっては芸大の学生たちの研究として実験を繰り返させたものもあるそうだ。
研究はさらに進み、紋様の輪郭線を描いてその中に色を塗る従来の「骨描き」に対し、輪郭線を描かない「没骨法」を用いたり、白磁の釉薬自体の新たな色調(草白釉、雪白釉、梅白釉など)を生み出したりした。
左が骨描きの作品、右が没骨法による作品。没骨法ではよりリアルな描写が可能になっている。

元々が学校で工芸図案を学んだ藤本能道は、リアルな描写ではあるものの、そこに描いた鳥や木々はあくまで図案であり、磁器をキャンパスに絵画を描こうとした訳ではないそうだ。その拘り、素人目にはなかなか読み取れない。
研究はさらに進み、釉薬自体に色を付けて「背景」を描くことに挑戦する。それにより、釉薬による背景と、その層の上に描かれた図案(鳥や木々)とに遠近感が感じられるようになる効果をもたらした。
智美術館の創設者の持つ施設に昭和天皇・皇后が宿泊することになった際、藤本能道にディナーセットの製作を依頼。その一部が展示されていた。
その当時、藤本能道は自らの窯を持ち、工房を立ち上げて“独立”した形で製作をし始めていた。それ故に、この依頼を受けることができたとのこと。

鳥や木々をリアルに描いてきた藤本能道だが、晩年に近くなると情緒的な表現に変わっていった。病気を患い、闘病しながらの製作だったことがどのように影響したかは不明だが、この陶板画のようなテイストとなっていった。

感想
智美術館では多くの藤本能道の作品を収蔵しているため、これまでの企画展でもしばしば展示されていて、私も観たことがある。だが、いつもの(?)企画展では形状や材質の面白さに富んだ作品が多く展示されているため、色絵磁器という王道の作品がこれだけ多く展示されているのを観るのは初めてだった。
とは言え、題材は鳥だし、描画スタイはリアルだし、非常に“分かり易い”作品ばかりで取っつき易かった。さらに、キャプション(各作品の説明書き)には実際の鳥の写真が使われていたりして、より親近感を持って作品を楽しむことができた。これはなかなか良いアイデアじゃないでしょうか。

本人は「図案化した鳥」と言っていたそうだけど、木の枝に止まって休んでいる姿や飛び立っている姿、そして数羽で空を舞っているシーンなどまさに絵画的。説明書きの鳥の写真と見比べるとより楽しめる。もちろんデフォルメされているところもあり、カラスの羽は無機質なつやつやの黒色という訳ではなく、ちょっと毛羽だった雰囲気で描かれていて、より優しい雰囲気になっている。
今回、私が気に入った作品はこちら。色つき釉薬の不思議な背景の紋様が面白い。夕焼けと、それが水面に映った様子でしょうかね。そして数羽の鳥がその中を飛んでいる。その姿はきれいに揃っている訳ではなく、羽の広げ方が三羽とも異なっている。何かがあって水面から急に飛び立ったのだろうか。なんか、そんなドラマを想像させてくれたので、この作品がお気に入り。

美術展情報
- 会期 : 2025/6/7(Sat) – 9/28(Sun)
- 開館時間 : 11:00 – 18:00
- 休館日 : 月曜日 (月曜日が祝日の場合は開館し、翌火曜日が休館日)
- 料金 : 一般1100円、大学生800円、小・中・高生500円 ぐるっとパスの提示で入場無料
- 公式サイト : 最新の展覧会|展覧会|菊池寛実記念 智美術館
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