「山沢栄子 私の現代」展@東京都写真美術館 静物画のような作品に惹かれます

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山沢栄子 私の現代 展 美術展・写真展
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展示内容

東京都写真美術館 で開催中の「 山沢栄子 私の現代 」展を観てきました。
公式サイトによると

山沢栄子は1899年大阪に生まれ、1920年代のアメリカで写真を学び、1930年代から半世紀以上にわたり、日本における女性写真家の草分けとして活躍しました。
(中略)
生誕120年を記念した本展では、1970–80年代に手がけたカラーとモノクロによる抽象写真シリーズ〈What I Am Doing〉を中心に、 抽象表現の原点を示す1960年代の写真集、 戦前の活動を伝えるポートレートや関連資料などを展示し、写真による造形の実験を重ねることで、独自の芸術表現に到達した作家の歩みを辿ります。

とのこと。また、展示構成は以下の通りです。

  • 第一章 私の現代
  • 第二章 遠近
  • 第三章 山沢栄子とアメリカ
  • 第四章 「写真家」山沢栄子

“What I Am Doing.”とNo.だけのタイトルの作品群は、 1970-80年代に「私の現代」と題した個展で発表したもの。水をかけて濡らしたレンガだったり、紙を丸めたものだったり、針金を巻き付けたブロックだったり、壁だったり。絵画の静物画のようにオブジェを配置し、ライティングによる陰影も付けて撮影されたそれらの作品は、“実写版静物画”だ。
No.66は、針金が巻かれたブロック。そこに一本の鍵がある。だが、鍵はあるものの、開けるべき錠が見あたらない。これでは針金は取れそうにない。解くべき問題を立て損ね、考えあぐねているように見える。
No.75では、ワインボトルボトルの口から針金が伸び、彷徨っている。無機質な存在のはずなのに、黄色の針金は植物のツタか、もっと能動的に動き回る線虫のようでもある。画面右側には水差しなのだろうか、こちらも黄色の容器がある。それに気が付いたと同時に、ただの針金だったものが、同じ黄色のものを見つけてそちらに向かうか思案しているように見え始めたのだ。

1950年代から60年代にかけての作品を発表した写真集「遠近」は、ネガもポジも失われ、今や写真集の形でのみ、残された作品群だ。商業写真家として大阪堂島にスタジオを構えていた作家は、商業写真の研究のために渡米する。その滞在先で撮った写真を中心に構成されている。「黒人街」や「歩く老婦人」のようなスナップ作品が続くが、林檎と器だったり、実の付いた栗の枝だったりを写した作品群は、後の“静物画”作品群の先駆け的な存在のようだ。

感想

「 日本における女性写真家の草分け 」だそうですが、ごめんなさい、私は“初めまして”でした。

なのですが、最初の「私の現代」の作品群を見て、一気に惹かれちゃいました。静物画のような画面構成なのに、オブジェは無機質な物ばかり。花や果物とは異なった質感のせいでしょうか、それとも陰影なのでしょうか、何かを語りかけてくるような感じがして引き込まれます。いやぁ、不思議。
針金と鍵が何回か出てきたけど、錠前で閉じられた訳じゃなくて、針金でグルグル巻きにされているのだから、鍵なんかがあっても無意味。ミスマッチ、誤解、齟齬、すれ違い。問いの立て方を間違えたのに、そのまま進んでしまって詰んでいる状態。そんな感じでしょうか。

東京都写真美術館

それに対して、アメリカの街で撮ったスナップ作品や、商業写真家として撮ったポートレートは、なんと言うか叙情的。特にポートレート作品は被写体の“表に出さない感情”が滲み出ているような雰囲気を持っていて、「この人は何を思っているのだろうか?」と考えてしまう。

それにしても不思議なのが作品のタイトル。作家自らが付けたのでしょうか。 だとしたら、原題(英語)と邦題が異なったテイストなのは何故だろうか。「枯れ葉」が「Fallen Comrade(倒れた同志)」だったり、「二匹の羊」は「Beginning of Winter(冬の始まり)」だったのに。確かに、枯れ葉が一枚だけどーんと写っているし、羊が二匹並んでいるだけだ。邦題はストレート。英語の方が原題だそうだから、元はかなり意味を込めたネーミングになっている。これはどういう心境の変化なのだろうか。うむ、不思議。

「初めまして」だったのに、観終わった頃にはすっかりファンになってしまいました。

美術展情報

  • 会期 : 2019/11/12(Tue) – 2020/1/26(Sun)
  • 開館時間 : 10:00 – 18:00
  • 休館日 : 月曜日、2019/12/29-31,2020/1/1
  • 料金 : 一般 700円、 学生 600円、 中高生 500円、 小学生以下および都内在住・在学の中学生は無料
  • 公式サイト : 東京都写真美術館
  • 図録 : 「私の現代」 3,500円(税別)

コメント

  1. 中野 潤子 より:

    私もこの写真家知りませんでした。色々な展覧会があってそちらにいると楽しみですね。

    • bunjin より:

      東京都写真美術館は三つの写真展を同時開催していることが多いので、「意外な出会い」が楽しめます。