「ポンペイ」展で二千年前の暮らしに触れる

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ポンペイ展 美術展・写真展
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東京国立博物館 – トーハクで、特別展「ポンペイ」を観てきました。

この企画展では写真撮影OKです。ただし、三脚・フラッシュNGなどの注意事項には従ってください。

展示内容

公式サイトの説明によると

本展はポンペイから出土した多くの優品を所蔵するナポリ国立考古学博物館の全面的な協力のもと、日本初公開を含む約150点の名品を紹介。ポンペイ最大の邸宅「ファウヌスの家」などの一部を再現するほか、遺跡の臨場感あふれる高精細映像など、2000年前にタイムスリップできる空間演出もお楽しみいただけます。高度な文明と豊かな暮らしを今に伝える貴重な出土品や映像を通して、ポンペイの繁栄とそこに生きた多様な人びとの実像に迫ります。

特別展「ポンペイ」 Special Exhibition POMPEII

とのこと。

展示構成は以下の通り。

  • 序章 ヴェスヴィオ山噴火とポンペイ埋没
  • 1 ポンペイの街 ― 公共建築と宗教
  • 2 ポンペイの社会と人びとの活躍
  • 3 人びとの暮らし ― 食と仕事
  • 4 ポンペイ 繁栄の歴史
  • 5 発掘のいま、むかし

ポンペイ関連の展示というと、このような災害の被災状況を生々しく伝えるものがよく目に付くだろう。こちらは、被害者の石膏型。火砕流に飲み込まれたのだろうか。

ポンペイ展

だが、今回の企画展は「災害地・被災地」というよりは、「当時の人々の暮らし・街の様子・文化」を伝える品々の展示が主だった。

例えば、このエウマキア像のようなもの。ポンペイのお屋敷に飾られていた大理石の像だ。この人、ポンペイでの“成功者”で、名家の当主であった人だそうだ。当時も参政権は男性のみしか持っていなかったが、商業やその他の面では女性も大いに活躍していて、財を成した人も多かったとのこと。政治に金は付きもの、と言うのはローマ時代も同じだったようで、その点ではこの女性も財力を活かして強い発言権を持っていたのではないでしょうか。

ポンペイ展

そんな商業活動の活発さを示す「落書き」も多く残されていました。こちらは「空き家貸します」の宣伝だそうです。

ポンペイ展

宣伝と言えば、こちらはパンが描かれたフレスコ画。パン屋の宣伝用だったのでしょうか。
当時、台所を家に備えていたのは一部の富裕者のみ。一般市民は外食もしくはテイクアウトで食事をしていたそうです。パン屋もその一つだったようです。切り分けやすいようにしているんですかね、切り込みが入ったようなデザインのパンが主流だったみたい。

ポンペイ展

パンそのものも発掘されています。絵に描かれていた通りの格好をしていますね。火山の噴火で一瞬のうちに灰に埋もれてしまうと言う悲劇に襲われたポンペイですが、ここまで当時の様子が分かるものが残ったというのは、現代の我々にとっては貴重な資料になった訳で、有り難いことです。

ポンペイ展

ポリュクレイトス(彫刻家)による「槍を持つ人」の像。オリジナルは紀元前450年頃のもので、これはそのコピー。と言っても、ポンペイから発掘されているので紀元前後の作品です。筋肉の表現は、当時の人々の美的感覚を示していますね。

ポンペイ展

こちらは「踊るファウヌス」像。通称“ファウヌスの家”と呼ばれる豪邸からの出土品。この像が中庭に飾られていたのでそう呼ばれるようになったそう。まさに、躍動美ですな。
ファウヌスはギリシア神話で言う「パン神」。農耕の神様・財宝の守護者だそうです。豪邸を飾るに相応しい神様ということなのでしょう。

ポンペイ展

豪邸を飾っていたものは他にも色々。例えばこの「青の壺」と呼ばれるアンフォラ(ブドウ酒の入れ物)です。写真では色が分からないかも知れませんが、青地のガラス壺に白ガラスの浮き彫りがされています。これが二千年ほど前に作られたものなのが凄い。日本は弥生時代ですから。

ポンペイ展

凄いと言えばこれも。水道管とそのバルブです。こんなものも既に作られていた訳ですから、芸術だけではなく、“工業技術”の面でも凄かったことが分かります。これらを使って水道設備を整えていたからこそ、密集した住宅で街を覆っていても生活が成り立つし、さらには中庭に池や噴水まで設けることができた訳です。

ポンペイ展

もちろん、現代と比べたら“まだまだ”の点も当然あります。こちらは日時計として使われていた大理石の板。影を作る棒を立てる穴が開いていて、影が差す位置で時刻を知るための印(線)が一杯描かれています。さすがに機械時計はまだこの時代にはなかったようです。

ポンペイ展

でも、その分(?)、人手による労は惜しまなかったようで、作業は緻密で時間がかかっただろうと思われるものも一杯。この絵、フレスコ画のように見えますが、モザイク画です。大きさが数ミリ辺の色石を細かく、細かく貼り詰めて描かれています。その数は数十万・数百万だとか。いや、気の遠くなるような緻密さですね。

ポンペイ展

こちらもモザイク画。家の玄関の床に描かれたもの。そう、「猛犬注意」ということです。何カ所もの家の玄関で見つかっているそうで、当時の流行だったのかも知れません。

ポンペイ展

流行と言えば、悲喜劇も多く上演されていたようです。野外劇場が作られて、人びとは演劇を楽しんでいたようです。その劇の様子を像にしたものも残っていました。口を開けた変顔をしている訳ではなく、当時は役者がみな仮面を被って演じていたのだそうです。自分とは異なる存在であることを分かり易く表現しているのでしょう。

ポンペイ展

変顔とは違うんですが、こんな肖像もありました。「伝ルキウス・カエキリウス・ユクンドゥスの肖像付ヘルマ柱」です。金融業で財を成した一家で、その肖像です。まあ、創業者の銅像が会社のロビーに飾ってあるなんて様子は現代でもよくありますよね。
でも、この像の変わっているのは、頭部だけではなく、なぜか“性器”もくっついていること。企画展の資料にはこの点に全く言及していないのですが、Wikipediaによると(ヘルマ – Wikipedia)「ファルス(男根)の神」に由来するものらしい。ヘルマ(ヘルメース)神は商人・旅行者の守護者。商業には旅も付きものだったでしょうからね。そのため、生殖力・運・街道と境界などと関連付けられて祀られ、街道沿いにこの型の像が置かれていたとか。
韓国や日本でも子孫繁栄や祖先神崇敬のシンボル、そして道祖神として男根型の石を村の境界に置く風習がありましたが、洋の東西を問わずに行われていた、普遍的な感覚だったのかな。
それにしてもこれを玄関に飾っていたなんて、なかなか“オープン”な家ですねぇ。

ポンペイ展

当時のローマ社会では身分制がはっきりとしていました。一般市民の生活を支えていたのが奴隷制による“労働力”の確保。戦争捕虜などで奴隷となった人びとによってローマ社会は成り立っていたようです。
ただ、その奴隷たちもその技能や貢献などが認められると、奴隷所有者などによって「解放奴隷」として認められ、一定の自由が与えられたそうです。奴隷から“在留外国人”扱いになった感じでしょうか。

そんな社会制度を象徴しているのでしょうか、テーブルに描かれたこの絵は「Memento mori(メメント・モリ)」と呼ばれていて、死んだらみな一緒ということを表しているとか。

ポンペイ展

上記の「ヘルマ柱」もそうですが、今回の展示では説明不足じゃないの?と思われるものが他にも散見。この「シストルム」もその一つ。「シストルム」が何者かの説明がありません。一般常識として知られている、とは思えませんから、もう少し解説が欲しかった。
ちなみにこれ、楽器だったようです。子どものオモチャのガラガラ、もしくはタンバリンのような感じで、振って鳴らすものだったようです。

ポンペイ展

感想

以前からローマの歴史には非常に興味があり、色々と本も読んだりしていたのですが、こうやって“実物”を観られるのは貴重な経験でした。“遺跡”というには生々しすぎるほどのものが残っていて、こんな形のパンを食べていたのか、こんな落書きをしていたのか、水道施設がちゃんとしていたんだなぁ、なんてことがよく分かりました。いや、ローマ文明、凄いですね。なんてったって、二千年前のものなのですから。一見の価値、大いにアリです。

あと、展示の最終コーナーでは、ポンペイ以外の埋没地における発掘研究の様子も紹介されていて、知らなかったことも多く、勉強になりました。ヴェスヴィオ山の噴火で埋まってしまったのはポンペイだけではなく、他にもいくつもの街が犠牲になった。その一つのソンマ・ヴェスヴィアーナは山の北側に位置する街。南側のポンペイとは異なり、硬い溶岩に覆われてしまったため、発掘作業も容易ではなかったので、後回しにされていたようです。それが、東京大学を中心とした発掘作業が始まっていて、立派な門が見つかったりしているようです。ポンペイもそうですが、これらの街ではローマの属国になる前の文化もよく残っているようで、ヘレニズム時代の文化などもさらに知ることができるようになるみたい。今後の展開が楽しみです。

COVID-19の感染が広がっているせいでしょうか、人手はいつもよりも少なかった。もちろん、日時指定制による観覧だったのですが、博物館全体でも人の数は少なかった印象が。幸か不幸か、そのお蔭で、いつもは満席になってしまう屋外テーブルのコーナーがガラガラ。初めてキッチンカーで売っているものを買ってランチをすることができました。さすがに屋外での食事は寒かったけど、建物自体も美しい東京国立博物館の中でするランチはいい気分でしたよ。この「横手焼きそば」も美味しかったし。

横手焼きそば

諸々、おすすめの企画展です。

美術展情報

  • 会期 : 2022/1/14(Fri) – 4/3(Sun)
  • 開館時間 : 09:30 – 17:00
  • 休館日 : 月曜日, 3/22(Tue) (3/21, 3/28は開館)
  • 料金 : 一般 2,100円 、 大学生 1,300円、 高校生 900円、 中学生以下 無料
    • 事前予約制(一部、当日券あり)
  • 公式サイト : 特別展「ポンペイ」 Special Exhibition POMPEII
  • 巡回先 : 京都、福岡、九州、宮城
  • 図録 : 2,900円(税込)
  • 参考書

コメント

  1. 中野 潤子 より:

    ポンペイは行ったことがあるので記憶がよみがえって来ます。

    • bunjin より:

      おお!羨ましい!
      私もいつか、ローマ帝国の遺跡巡りをしてみたいものだと思っているのですが、なかなか。