「名付けようのない踊り」舞踏家とはなぜここまでストイックに生きられるのか

名付けようのない踊り 映画・演劇

★ あらすじ

田中泯は1945年3月10日生まれ。東京大空襲があった日だ。クラシックバレエとアメリカンモダンダンスを学び、1966年からソロダンス活動を始める。

田中泯のダンスはジャンル分けできない。それは「場踊り」と呼ばれていて、劇場だけではなく、路上を舞台に、衆目の中で踊る。1978年にフランスのパリで開催された芸術祭に招待され、海外デビューを果たすと、それからは多くの国々で「場踊り」を行ってきた。本作はそんな彼の活動の一端を追っている。

映画「たそがれ清兵衛」でスクリーンデビューすると、映画にも多く出演するようになる。「メゾン・ド・ヒミコ」出演で犬童一心監督とも親交を深めていき、本作もそんな関係から生まれている。犬童一心監督は、田中泯のダンスだけではなく、彼が農業をしながら暮らしている山村での様子も追って、彼の生き方そのものを描き出そうとしている。
また、彼の幼少の頃の想い出をアニメーションで描き、田中泯のダンスに対する想い・考え方のルーツを見いだそうとしている。

ポルトガルのサンタクルスの街角で一人、「場踊り」を披露する田中泯。石畳の狭い路地には誰もいない。彼は一人で踊り続ける。そして、路傍に座り込み、踊りを終える。コンコンコンと頭を叩きながら「脳みそが深海に沈んでいくようだ。幸せだ。」とつぶやくのだった。

★ キャスト&スタッフ

  • 出演:田中泯, 石原淋, 中村達也, 大友良英, ライコー・フェリックス, 松岡正剛
  • 監督:犬童一心
  • 脚本:犬童一心
  • アニメーション:山村浩二
  • 音楽:上野耕路
  • 音響監督:ZAKYUMIKO

★ 感想

私が田中泯を知ったのは映画「たそがれ清兵衛」なので、初めはダンサーだと言うことも知らなかった。とにかく存在感のあるひとだなぁ、というのが第一印象。ダンサーとして認識してからもダンスそのものを見る機会はほとんどなく、この作品がほぼ初めてといっていいでしょう。
そんな「田中泯」初心者の私でもスクリーンの中で踊っている姿を観てすぐに惹きつけられてしまいました。そもそもこれをダンスと呼べるのか、ただ路上でのたうち回っているだけではないのか、と初めは思ってしまったんだけど、段々に何を表現しようとしているのか、何を語っているのかを感じ取りたくなってしまった。そう、理解するのではなく、感じ取るという表現が合っているように思える。
作品の中で田中泯も、「コミュニケーションの手段として、言葉の前にダンスがあったはず」という主旨のことを語っている。概念の相互理解を前提とした言葉によるコミュニケーションではなく、感情の共感を呼び起こすコミュニケーションというようなことなのかなと理解した。そう思うと、「名付けようのない踊り」というタイトルもしっくりと来る。

十年ほど前、ドイツの舞踏家の姿を追った「Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち」というドキュメンタリー映画を観た。その姿は、躍動感と肉体美、と言う表現がぴったりのダンサーだった。
一方の田中泯も、日々の農作業で鍛えた身体は七十歳を過ぎても非常に美しい。しかし、彼のダンスは躍動感と言うよりは、何かに取り憑かれたような、内側から滲み出てくるものをさらに絞り出すような感じだ。そして、田中泯が作中でも語っているように、「ダンスはダンサーとそれを観ている者の間に存在する」ものなのだろう。観ている者は毎回異なるのだから、一回性が強くなる。確かに「名付けようのない踊り」とならざるを得ないのかも知れない。

アニメで描かれる、少年時代の想い出もなかなかにインパクトがあった。見応えのある一本でした。

★ 公開情報

名付けようのない踊り

★ 原作本、他

コメント