「ナチスに仕掛けたチェスゲーム」

スポンサーリンク
「ナチスに仕掛けたチェスゲーム」 映画・演劇
記事内にアフィリエイト広告が含まれています。
以下の内容は、いわゆる「ネタバレ」を含んでいます。

★ あらすじ

ヨーゼフ・バルトークは、ウィーンで公証人を務める“富裕層”の一人。妻と舞踏会でダンスを楽しむような生活を送っていた。しかし、そんな平和な日々が一転する。ヒトラー率いるドイツ軍がオーストリアに侵攻してきて、あっという間に国が併合されてしまったのだ。そして、彼はナチスのゲシュタポに目を付けられてしまう。公証人として、オーストリアの貴族たちの財産管理をしていた彼から、ゲシュタポは銀行口座を聞き出そうとしたのだ。その情報を知り、妻のアンナに海外渡航の切符を渡して別れた彼は、公証役場の事務所に向かう。そこで必要書類を焼却してしまった。だがその時、銀行口座に関する情報を彼の頭の中(記憶)に残しながら。

しかし、あっけなくゲシュタポに捉えられてしまう。連れてこられたのはウィーンの高級ホテル。ナチスはこのホテルを接収し、監禁・拷問のための施設にしていたのだ。待っていたのはゲシュタポのフランツ=ヨーゼフ・ベーム。ベームは暴力的な拷問を行わない。だが、彼のやり方はもっと恐ろしい物だった。ヨーゼフ・バルトークを402号室に閉じ込める。窓から見えるのは向かいの壁と何もない中庭だけ。外からの情報は一切遮断されている。毎日、同じメニューの食事を持ってくる兵士も、全く口をきかない。そう、それは時間感覚を奪い、意味のない生活を繰り返させるという“拷問”だったのだ。文学や芸術を愛するヨーゼフ・バルトークは精神的に追い詰められていく。そんな日、訊問のために部屋から出された隙に一冊の本を盗み出す。それはチェスの指南書だった。チェスなんかをやったことのないバルトークだったが、文字に、情報に飢えていた今の彼にはなによりの心の拠り所となる。

アメリカへと向かう豪華客船にヨーゼフ・バルトークは乗っていた。船内ではチェス大会が開かれている。ナチスの監禁中に覚えたチェスの腕を見込まれ、彼はチェスの世界王者と対戦することになる。行き詰まる熱戦となったチェスの試合。
だが、彼はどうやってナチスから逃れ、こうしてアメリカ行きの船に乗ることができたのだろうか。白熱のチェスの試合とともに、その謎が明らかとなっていく。

★ キャスト&スタッフ

  • 出演:Oliver Masucci, Albecht Schuch, Birgit Minichmayr, others
  • 監督:Philipp Stölzl
  • 脚本:Eldar Grigorian
  • 原作:Stefan Zweig
  • 音楽:Ingo Frenzel

★ 感想

ナチスはインテリに対しては精神的拷問を行っていた、という話を思い出した。意味のない単純作業を繰り返させられたりすると、インテリほど精神をおかしくしてしまうというものだ。かなり時間(期間)のかかるやり方なので、“非効率的”と思っていたのだが、この作品を観ると意外と効果的な方法だったのかな、と変に納得してしまった。

上記のあらすじではナチスに捉えられたシーンを順に記したが、実際の作品はそのシーンと客船内でのシーンが交互に描かれ、観ている方も時間感覚があやふやになってくる仕掛けとなっていた。そして、ナチスの“拷問”に精神的に追い詰められていく主人公の姿を観ていると、こちらまで息苦しくなってきそうだった。

ここまでしてナチスに抗った主人公だが、彼は何を守りたかったのだろうか。なんだかんだ言って他人の財産だ。それをここまでして守る義理はなかろう。では、ナチスに対して祖国を“売り渡す”ことができなかったのだろうか。それとも、この理不尽さに納得できなかっただけなのだろうか。もちろん(?)具体的に語られることはないが、その辺りがこの作品のキーポイントのようだ。
今現在、“隣国”のロシアは戦争を起こしている。他のアジアの国々もきな臭い話が多い。この映画の話も、昔話やどこかの国の話として済ませない未来が来るかもしれない。そう思うと、一人の市民としての自分がその立場になった時、果たしてどうするだろうかとも考えてしまう。

原作を読んでもう少し考えたい、と思わせる作品でした。記憶に残る作品になりそう。

大昔に観た「未来世紀ブラジル」を思い起こさせたが、こっち(シュテファン・ツヴァイク)の方が先だったんですね。

★ 公開情報

★ 原作本、他

The Royal Game: A Chess Story

コメント