「世の中にたえて桜のなかりせば」 誰の人生も桜のように咲きほこってほしいもの

世の中にたえて桜のなかりせば 映画・演劇
以下の内容は、いわゆる「ネタバレ」を含んでいます。

★ あらすじ

高校生の咲(さき)は学校でトラブルがあり、以来、不登校となっている。だが、家に引きこもる訳ではなく、自ら見つけたバイトを続けている。それが「終活アドバイザー」だ。“同僚”は八十を超える敬三さん。真面目な咲はマニュアル通りに対応しようとするが、敬三さんは突拍子もないことを言い出し、咲を驚かせてばかりだった。

そんな二人の元には、「もうすぐ子どもが生まれるけれど、“職業柄”遺書を用意しないといけない」人が相談に来たり、「川に関わってきた自分の仕事を記録に残したいからビデオ作成を依頼したい」人が訪ねてくる。マニュアルでは、話を聞いて、それぞれ専門業者を紹介しておしまいなのだが、二人はそれぞれの依頼に対して自分自身で取り組んでいくのだ。

咲が不登校になった理由の一つが、敬愛していた国語教師の南雲のことがあった。南雲は生徒たちからのイジメにあい、教師を辞めてしまい、引きこもりとなってしまったのだ。そんな南雲の元を咲は度々訪ねていき、料理を作ったり、部屋の掃除をしたりしていた。引きこもりの元教師と不登校の生徒という不思議な関係が続いていた。

そんな時、敬三さん自身の昔話を聞く機会があった。彼は、七十年前に故郷を離れたのだが、学校裏の桜の木には、病気で余命幾ばくもない妻と一緒に見たという想い出があったのだ。咲は敬三さんと奥さんの終活のために、その思い出の桜を探すことを決意する。

★ キャスト&スタッフ

  • 出演:岩本蓮加、宝田明、吉行和子、徳井優、土居志央梨、名村辰、郭智博、柊瑠美、伊東由美子
  • 監督:三宅伸行
  • 脚本:敦賀零、三宅伸行
  • 制作:宝田明、埼玉県/SKIPシティ彩の国ビジュアルプラザ、TOKYO MX、ビーイング、東映ビデオ
  • 主題歌:all at once

★ 感想

桜の花に人生の栄枯盛衰を観る、という人生観・死生観はなんだかんだで我々に染み付いているのだろうか。「コーダ あいのうた」のようなサクセス・ストーリーよりも素直に泣けてしまう。ベタなストーリーとも思えるけど、つまりは普遍的なテーマと言うことなのでしょう。

世の中にたえて桜のなかりせば

宝田明の遺作になるのだろうか、この作品は。でも、それを差し引いても宝田明、吉行和子の静かな演技は共感してしまう。満州からの引き上げ体験や、東京大空襲の過去を語る二人の話は、映画の中の話ではあるが、二人の実体験でもあるのだと思う。今、まさに戦争が起きていて、日々、戦場の悲惨な映像がニュースに流れている状況で、このような体験記は改めて聴くべきもの・語り継いでいくものだとも思わせてくれた。

Memento mori。死は誰にでも訪れるもの。終活も他人事ではない。非常に普遍的なテーマだ。それを、まさに死がすぐそこに迫っている老人と、これからまだまだ人生が続いていく女子高生とを組み合わあせて語らせているところがわかり易い。死を考えることは、長いか短いかわからないが、これからの人生を考えていくことでもある、というメッセージなのだろう。
失敗、挫折は誰にでもあるもの。でも、そこから抜け出すための一歩を踏み出すにはやはり何かきっかけがないと難しい。その意味で、終活を考えてみるのもいいのかも知れない。遅かれ早かれ、人は死ぬ。それを思った時(思い出した時?)、それは今ではない、まだやりたいことはあるとなるかも知れないから。そうそう単純なものではないだろうけど、どうせ死ぬのだからと開き直ってみれば世界も違って見えるかも知れない。

まあ、そんなことを思いながら観た一本でした。最近、映画を観ても泣けないなぁと、自分の心がいじけてきたかと思っていたけど、夕焼けの河原や満開の桜のシーンには泣けました。

★ 公開情報

コメント

  1. 東雲 より:

    1日の夕刊に、この映画の記事が載っていました。
    若いころから憧れだった桜を題材に映画を撮りたいと、
    宝田さんが企画された、等々が書いてありました。
    この時は、岩本蓮加と言う人も知らないし、
    「なるほどね・・・」と思っただけでしたが、
    ぶんじんさんの感想を読んで、とても気になりました。
    映画館には中々行けないので、
    いつかWOWOWなどで放映される事があったら、是非観たいと思います。

    • bunjin より:

      ベタな話なのですが、奇をてらわないところが良かったと思います。

  2. 中野 潤子 より:

    文人さんが涙を流した。これはぜひとも見なければなりません。